「あなたの飲んだり使ったりしている水はどこからきてどこへ行っていますか?」
環境と言ってもよくわからない。農業や林業、漁業に従事している人たちはあんまり環境という言葉は使わない。うちのおふくろなんか「見たことも食ったこともないものは分からない」という顔をしている。うまく説明できない。だから、水俣にとって大事な環境をどうわかりやすく伝えるか考えた結果、毎日世話になっている水を通して考えることにしました。水のある暮らしは川とつながリ海や森とつながっていくからです。
方法は、地図に出の頂き、分水嶺、沢、谷、川を色塗りし、田、畑、自然林、竹林、農業用井堰と水路、洗い場、水源と水道管路、池、排水、そして山の神、田の神、水神さん、荒神さんなどの自然神を記入しました。
やってみてわかったことは、山(森)は、水めぐりをよくする毛細血管に似ていることです。
町の人たちの飲む水は川の上流域全部に関わっているから、山の手入れもしなければと思うけど、上水道の蛇口の向こうには森が見えなくなっていること。農村の景観は美観ではない。水が作った景観だということ。水の使い方で見ていくと地域は面白くなってきます。私の住んでいる薄原(すすばる)集落も45世帯であんまり変わらないのは、水の容量だと思います。
●地元に学ぶ「地元学」のこと
「地元のことを外の目を借りながらも自ら調べ、調べるだけでなく考え、そして日々に生活文化を創造していく」
地元のことは調べた人しか詳しくならないし、内と外の関係が問題だということに気づいたんです。そして、
1]地域固有の風土と生活文化の厚みがモノをつくり地域を作り生活を作っている。だから自然と暮らしの把握は欠かせない。自然は水のゆくえから、生活文化の厚みはあるもの探しから調べていったらどうか。
2]違い、異質の出会いはそれを誘発する。だから違うことを認めて共に創り上げていく、共創関係にしていくこと。
3]「形のあるものには意味がある。だから意味を把握してから形を変えていかないと意味を見失い形も壌れてしまう」
地元学の発端は、地域デザイン研究会の会合で考えたのがきっかけです。でも宮城県仙台市在住の結城登美雄さんは私より先に地元学という言葉で地域を調べていました。
水俣では、今井俊博さん、今井史さんなどの外の人との交流を通して、地元学が形作られていきました。
考えるだけではなく作っていく。役人は現場でつくっているけどあんまり調べもせずに考えもしていない。大学は何かを創っているのかよくわからない時がある。だから組んでやっていけばいい。
地域をつくり、生活をつくっているのは誰かという主体の認識も問題です。地域を作っているのは役所と誤解している人がいます。主体は住民も産業界もあるし、専門家もそうです。
それから、考える手法ですが、私は「つなぐ・重ねる・はぐ」でやっています。
「つなぐ」とは水を川で森と海をつなぐとかだし、「重ねる」とは等高線と水場、お寺や神社などと重ねると、出っ張りに神社、引っ込んでいて水のある所にお寺や古い家が多い。「はいでいく」とは新しいものをイメージではいでいくこと。すると今まで見えなかったことが見えてくるようになります。だから、自分の言葉で地域の個性などを語れるようになります。「つなぐ・重ねる・はぐ」で過去を読み、これからの文脈を読み、変化を読み、今に手を打っていく。その生活づくりの方向はいい地域をつくるためです。宮城仙台の結城さんが教えてくれたいい地域の条件は次の6つです。
1]いい仕事がある。役に立つ仕事がある。
2]いい自然がある。
3]いい習慣がある。
4]少しの金で笑って暮らせる学びの場がある。
5]住んでいて気持ちいい。
6]自分のことを分かってくれる友達が3人以上いる。
これがいい地域ではないでしょうか。