2. 「KOA株式会社」の理念と取り組み
KOA株式会社は、東証一部に上場の伊那を代表する企業である。伊那谷に大小18の工場、事業所を持ち、地域とともに成長してきた企業です。
昭和初期、産業といえば農業と養蚕しかなかったこの土地に、当社の創業者故向山一人氏が、農業の余剰労働力を吸収して安定した現金収入が得られる工業を興さねばと、“伊那谷に太陽を”を旗印に、「農工一体論」を掲げて創業した。その後、順調に事業を拡大してきたが、1985年のプラザ合意による円高不況で一挙に業績不振に陥り、会社の存続すら危惧された。そこで会社を建て直すため徹底した無駄取りに取り組み、物流改善プロジェクトとトヨタ生産方式を手本に、新しい生産方式を開発していった。これがKPS(KOA Profit System)活動という当社独自の経営革新運動のきっかけとなった。KPS活動は棚卸資産の減少や、リードタイムの短縮など改善効果が見えだしたがKPSの推進にはトップの意識改革と思想、意思の統一が絶対条件であるとし、役員は全事業所を点検視察し、役員会に報告された。また、社員全員目標を設定して自己評価することにし、これが人事考課に高いウェイトを占めている。
組織も屋上屋を重ねた従来のものを、簡素化し責任の所在も明確にした。
そして製造は「ワークショップ」という小さなグループに分かれ受注から出荷まで一人の責任者が管理している。ワークショップがまるで一つの工場として機能している。また、生産管理は手書きの表やグラフで表示され、コンピューターの端末機は見当たらなかった。大型機械もオートメーションラインも無く、小さな設備で製造され、中には人力で動かす機械もあった。これらの機械のほとんどが社内でつくられているという。敷地の一画に「からくり工房」という開発小屋があり、常に新しい機械が研究開発されている。「からくり設備」とは次のようなものをいう。
1.現場の知恵と工夫が生かされている
2.小型・軽量・安価である。
3.使い勝手中心である。
4.加工以外の機械動作が少ない。
5.搬送・移し・位置替えが少ない。
6.不良を作る前に停止する。
7.メンテナンス・調整が単純化されており、専門家が要らない。
8.段取り替えが簡単にできる。
9.一貫生産で生産タクトが統一されている。
10.エネルギー消費が少ない。
11.再利用可能な部材を使用している。
12.開発・組み立て期間が短い。
かつて、大量生産のための大型機械から、今のからくり設備への転換を図ったためだ。分業による大量生産方式は、ものづくりの現場からお客様をわからなくし、現場では要望(市場)とは関係なく、自分の都合と見込みで、勝手につくることとなる。使うお客さまが見える生産、そして作る人の手のぬくもりがわかる製品をつくり、人の五感を中心にする仕組みを大切にしたい。また、社員の多くは農業を営んでおり、農業とつとめとが両立できるように配慮されている。環境に優しく、人間らしい“ものづくり”には、「工」であれ「農」であれ中心を込めてつくる歓びや、完成したときの収穫の感動がある。そんな歓びにあふれた一日一日を大切にしながら、未来に向かって進んでいきたいと思っているという。