日本財団 図書館


身をもって体験したこと

滝瀬奈穂子(看護学生20歳)

 

014-1.gif

イラスト/いずし・まみ

 

今回のボランティア参加で、初めて障害児と関わりを持ちました。私は小さい子どもは好きですが、どう接すればいいのかよくわからないときがあって、ちゃんと子どもとうまく付き合えるかという心配もありました。

Sちゃんは8歳。生まれつき一番目の染色体が逆さで、さらに末尾がちぎれてしまっています。補助があれば歩くことができますが、話すことはできません。夕食のとき、お母さんの隣にすわったSちゃんは、食欲旺盛で目の前にあるものを口につっこんでしまいます。食べ物が大きすぎて、のどにつっかえてしまうこともあり、お母さんは、食べ物を小さく切ってお皿に置いていました。あとは一人で食べられるので、お母さんもやっと落ち着いて食べられるのかと思ったら、弟のMくんに手がかかっていました。健常の子どもでも小さいときは手がかかるのに障害児がいると本当にたいへんなんだなあと思いました。

Tくんは6歳で自閉症。知的障害があるが身体に問題はなく、多動であまり話すことはしません。

食事のとき、普段とは違う場所のせいか、周りが気になるようです。突然いすから立ち上がり窓の外を眺めたかと思うと、ちゃんと座って食べはじめました。自分が興味のあるものがあると周囲を気にせずすぐに行動に移してしまうTくんに私はついていけませんでした。一日目の夜、屋外で星空コンサートがありました。昼間スイカを冷やしていた赤ちゃん用のプールに水が入ったままでしたが、ちょっとTくんから目を離したすきに、プールのふちを折りまげ水を流してしまい、そばに座っていた人のおしりがびしょぬれになってしまいました。お母さんは「少しでも目を離すと、何をするかわからないの」と言っていました。

「目が離せない」なんて、「たいへん」なんて言葉では片づけられない。私が想像もしていなかった苦労を親はしているんだということを知りました。二日目、ネーチャーゲームに参加しました。Tくんはゲームより昆虫が好きで虫を見ると追いかけていってしまいます。山でやっていたので、Tくんはひたすら上に登っていきました。いくら止めても無視して進んでしまうので、満足するまで好きにさせました。そうしたら、行き止まりまでいって戻ってきました。「多動の子は止めると余計に動きたくなるのだから、危険じゃないかぎり好きにさせたほうがいい」とネーチャーゲームの指導者に言われました。Tくんの気持ちが少しわかるような気がしました。自分が興味のあるものを追いかけたり気になる方向に進むのを、止められても聞く耳を持てないのは誰もが経験のあることだと思います。ただTくんはそれが人よりも多いのです。

うれしかったことがあります。Tくんから私に手をつないできました。追いかけるときはさんざん振り払われていたのに、Tくんから握られると、少しは私のことを慕ってくれているのかなと思いました。手をつないでいると、今まで追いかけていた疲れなんて映き飛んでしまっていました。

前から気になっていたのですが、きょうだいで健常の子と障害をもつ子がいたら、健常の子どもを多少はかわいがるのではないかと思っていましたが、全然そんなことはなく同じように子どもたちを大事にしていることを感じとりました。3日間、うれしかったこともありましたが、やはり「たいへんだな」と思うことの方が多かった。しかし、嫌な気はしなかった。とても充実した3日間でした。今までは、障害をもつ子どもを健常の子どもよりも一歩おいて、自分とは少し違うんだという目で見ていましたが、障害をもつ子どもだろうと健常の子どもに対する気持ちと変わらず同じように愛せることを身をもって体験した気がします。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION