2・7 レーダー・トランスポンダー
トランスポンダー(transponder)は、送信される電波を受信し、それをそのまま、あるいは、符号を付けたり、又は周波数を変えるなど応答の送信をする一種の無線装置である。これと類似するもので通信衛星や放送衛星などに搭載され、地上からの通信の内容を、衛星から再送信する装置もトランスポンダーであり、これは中継器(repeater)と呼ばれることもある。
ここで説明するレーダー・トランスポンダーは、船舶、航空機のレーダーからの電波を受信しその応答電波を発射し、それをレーダーが受信したときに、遭難者からの信号であることの符号が付されているものである。ほぼ同種の装置にレーダー・ビーコンがあるが、これは、陸地などの固定地点に取付けられる航路標識の一種で、その応答の符号は捜索救難のものと異なっている。
この捜索救難用のレーダー・トランスポンダーはわが国で開発されたものであって、従来は救助船が遭難船又は生存艇に近づくには無線方位測定機あるいはホーミング装置が使用されたのに代って、レーダーの使用を助ける装置である。この装置は、Search And Rescue Transponderを略してSARTと呼ばれており、その動作は次の通りである。
空中線は送受とも導波管にスロットを切ったスロット空中線である。3cm波帯(9GHz帯)のレーダーの送信周波数は、海岸局が9200〜9300MHz、船舶局と航空局が9300〜9500MHzであり、いずれの周波数の電波も受信できなければならない。そのために広帯域の直接検波の受信機で、受信したレーダー・パルスは増幅され応答時間信号発生器とモニタ・スピーカに送られる。モニタ・スピーカからは、レーダーの空中線がSARTの方を向いたときのレーダー・パルスの繰返し周波数の音が短時間聞こえ、付近に船舶がいることを知らせる。レーダー・パルスの繰返し音は船舶ごとに異なるので付近の船舶の隻数も分かる。スピーカーの代りに受信を点灯で知らせるものもある。応答時間信号発生器では、受信パルスをトリガとし送信機を駆動する応答時間信号などを作る。受信抑止信号発生回路は、応答送信の間、受信機を断にする信号の発生回路で、周波数掃引信号発生回路は次のような役目をもっている。すなわち、SARTの信号を受信するレーダーの受信機の受信周波数はSARTの受信機のように広帯域ではなく、その送信周波数に応じた狭帯域である。したがって、SARTの応答送信は上の周波数帯のすべての受信機で受信できなければならない。そのために、SARTの送信は、この周波数範囲をのこぎり歯状に変化させる形にし、その信号が周波数掃引信号発生回路で作られる。結果的な送信信号の長さは100μsでありこの信号のすべてが受信されたとすればレーダーのPPIの指示面のSARTの位置から遠方に150m×100(μs)=15km(約8海里)の尾を引くことになる。