この物標の高い部分が図9・17の最大の線より下になるともはや図9・19で極大値を取る曲線がなくなり、高さ50ftの実線の8〜10海里以遠に示すような減衰をすることになり、それが図9・20の8乗域の直線に相当する。こうして、4乗域はある高さをもった物標の最高部が、図9・17の最も低い最大の線よりは上にあるときの距離による反射波強度のR-4に比例する減衰をし、最高の高さが最大の線の下側にくる距離から遠方は8乗域になりR-8に比例をした減衰をすることになる。
図9・21は前の図と同じような反射波強度の距離による減衰曲線がA、B、Cと三本引いてある。この三本の曲線から物標の性質を比較することができる。まず、AとBとは4乗域から8乗域への屈折点が同じ5海里であるから、この二つの物標は同じ高さをもち、Bの物標は、より強い反射波強度が受信されているので、BはAよりはるかに大きなレーダー断面積σをもった物標であることが分かる。このレーダーが図9・19のような高さ15mの空中線のものであるならば、同図よりA、Bとも高さ7m程度の物標であると考えられる。これに対してCの物標の8乗域への移行は20海里と遠いが、4乗域ではAと同じ反射波強度である。これは、AとCは同じレーダー断面積σを有する物標であるが、CはAに比して非常に背の高い、図9・18で見るならば高さが70mもあるような物標であることが分かる。こうして、レーダーで探知できる物標の距離、最大探知距離は物標の大きさ(正確にはレーダー断面積)とともにその物標の高さが大きな影響を持つことが分かる。
9・8・3 海面からの反射波の特性
海面が比較的滑らかであればレーダー電波は図9・11に示すように遠方(前方)へ向けて反射又は散乱(forward scatter)をするだけである。海面が波立っているときは、いろいろな反射又は散乱成分になり、海面からの反射波がレーダーの方向に戻ってくるような反射又は散乱成分(back scatter) が生じ、それらはレーダー受信機で受信されて、指示器上に表示される。このような反射波は海面上にある浮標などの小さな物標の探知をマスクする妨害を生ずることになり、海面反射妨害(sea clutter)と呼ばれている。