港湾所有の問題に対してどのようなアプローチをするかということですが、私は弁護士として考えると、港湾とはどういうものであるかということについてまず合意を得るのがよろしいと思います。驚いたことに、港について皆が受け入れている定義がありません。定義しようという努力はされています。1986年に欧州委員会は調査結果を発表しており、主要なcommunity portに関する状況、つまりFact Finding Feportとして実情調査報告を、1996年に改訂版を出しています。この調査のために次のような提案を出しています。
「海港は土地区域、水域を持ち、整備事業や機械があり、主にそれは船の受け入れ、貨物の積み下ろし、物資の保管、これらの物資の受入れと搬送を内陸輸送として行い、そしてまた、海上輸送に関わる事業の活動を含む」と定義しています。注目すべき点は、港湾における主に貨物輸送に着目している点です。次の例はもう少し広範囲なものです。1996年3月、UNCTAD(国連貿易開発会議)で、次のような定義に合意しています。非常に包括的な定義です。「海港は多様な輸送形態の接点、通常、複合輸送センターであり、さらに、多機能貿易を行い、産業地域でもある。物資は中継されるのみならず、荷役、製造、流通がなされる多次元システムであり、適切に機能するためには、グローバルなロジスティックチェインで統合されるべきであるということです。さらに、効率的な港湾は、十分なインフラだけでなく、上部構造、機械のほか、優れた通信機関が必要であり、特に献身的で有能なマネジメントチームと、意欲的なトレーニングを受けた労働力が必要である」と定義しています。最後の定義として、私は日本の運輸省が発表したものを見つけたのですが、「港はインターモーダル輸送の結節点で、乗客と物資の海上および陸上輸送の接点であり、港湾は輸送に関わる経済活動のセンターである」という定義です。もちろんどの定義がベストであるかをディスカッションできますが、これら主要な基準は共通していると思います。一言でまとめると、「海港は水辺の区域であり、それは船舶、貨物、乗客の海上輸送に関係する経済活動を行う」と定義できます。
しかし、これらすべての定義において足りないものがあります。港湾はただ単にビジネスなのか、それとも公共の機能をもつものなのかどうか。私がみるところ、この問いに対しては2つの両極端の答えがあります。一部の人々は、港は主に公共の機能があり、それは必要とされる輸送リンクとしての役割であり、また、地元、地域、あるいは国家的重要性をもつ経済の動力であるといいます。また一方、港は純粋に商業的な事業であるという人たちもいます。ヨーロッパに関しては、後者の見解は主に英国でみられます。私の理解では、両方の要素がなければいけないと思っています。この点に関しては後ほど申し上げたいと思います。
またこれらの定義に含まれていないのは、港湾の所有について、また港湾がどのように組織され、運営されているのかについても言及されていません。当然これらの項目は、港湾の定義として基本的なものではありません。しかし、重要なファクターであることは間違いありません。少なくともこれらの定義から学べることは、港湾はただ単に区域であり、そのが自動的に独立した法人あるいは民間企業であるとはいえないということです。そうであるとすると、また別の問いが生じます。港湾の「所有」とは何を意味するのでしょうか。港湾とは、非常に多くの活動が複雑にミックスされたものであり、所有という言葉は、理論的にはいろいろな主体と結び付けて考えられます。つまり、港湾の陸域あるいは水域の所有権、さらにインフラ、上部構造、オペレーションといったものが考えられます。