(三種類のポートオーソリティの混在)
現在、イギリスには大小300港以上の港湾があり、うち100港強がトラストポートです。かってトラストポートは114港ありましたが、私有化により減少しました。このほか、地方自治体の管理する港がありますが、これらは中・小規模港です。大規模な港は、すでに概ね会社港に移行しており、民間会社により運営されています。
(港湾私有化は公共の損失、民間の利益)
BTDBが私有化され、その後トラストポートの私有化も進んできたため、イギリスの港湾私有化についての評価を行ったレポートが発表されるようになりました。港湾私有化の経済的得失を分析したレポート2/では、「公共の損失、民間の利益」が生じたと分析しています。公営と民営の効率を比較したレポー卜3/では、「どちらが優れているとの確認はできなかった」と報告してます。また、トラストポートの民営化をレビューしたレポート4/では、株式の売却方法に問題があった、港の売却価格が低すぎた、港湾利用者に対し参入を制限する差別的取り扱いが生じている、と指摘しています。
イギリスにおける港湾私有化に関して、横浜国立大学の来生新教授は次の通り、私有化の積極的評価、消極的評価とりまとめておられます。
(港湾私有化の積極的評価)
1] 私有化によって、事業上の意思決定の自由が、各事業主体に与えられた。
2] 特定の顧客に合わせた大深水バース等の大規模投資が効率的にできるようになり、港湾の競争力を増大させている。
3] 船会社等の顧客やその関連会社に、港湾への投資を勧誘し、投資の総量を増やすことが可能になっている。
4] 貨物運送事業を港湾経営主体が自ら行わず、それを独立の専門業者に競争的に委ねることによって、貨物運送自体の効率化を達成できる。
5] 私有化によって、被雇用者にも株式の特別割当てを行い、被雇用者も利益を得ることができた。
6] その成果は株価の著しい上昇になって市場で評価されている。
7] 公的部門からの支出を削減できる。国の財政収入に貢献した。
8] 港湾産業全体がいっそう競争的な構造になった。
9] 経営陣や労働者が利潤動機によって刺激されるので、港湾事業のより大きな成功に向けての努力が継続的に行われるようになった。
(私有化の消極的評価)
1] 政府の意図と異なり、一般的に、トラスト港の私的な買手に対する売却価格が、実際の市場価格に比較してはるかに低いものであった。(Medway、Clyde、Forth港)
2/ Richard Saundry & Peter Turnbull “Private profit, Public loss: The financial and economic performance of U.K. ports” Maritime Policy & Management Vol.24, No.4, 1997
3/ Zinan Lieu “The Comparative Performance of Public and Private Enterprises: The case of British Ports” Journal of Transport and Economic Policy, Volume XXIX, September 1995
4/ Alfred J. Baird “Privatization of Trust Ports in the United Kingdom: Review and Analysis of the First Stage” Transport Policy, Volume No.2, 1995