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(連邦政府による航路の維持管理)

米国では、航路の開発及び維持管理は、基本的に連邦政府の所管とされています。既に供用されている航路を維持するための浚渫は、連邦政府(陸軍工兵隊)が自らの費用で実施しています。維持浚渫の多いところは、コロンビア川(ポートランド港等34港が河川筋に散在)、ミシシッピ川(ニューオリンズ港等)などの河川筋です。

 

航路の新設・増深の場合は受益者となるポートオーソリティに対し、連邦が補助という形で費用の一部を負担しています。負担割合はケースによって異なりますが、コンテナ船用の港湾開発では、連邦60-65%、ポートオーソリティ35-40%程度が標準となっています。1986年に制定されたWater Resource Development Actは、港湾の維持浚渫の費用に当てるため、米国の港湾に搬出入される貨物に港湾維持管理負担金を課しました。この負担金は、利用する船の大きさや貨物の重量でなく、貨物の価格に対して付加されますので、港湾の維持管理に対する負担が不公平であること、必要額よりも過大に集められていることが問題となり、1995年、連邦国際貿易裁判所で違憲である旨の決定がなされました。

 

(米国港湾の民営化)

米国では、公共の所有する港湾施設を、民間の所有に移すという意味での民営化(私有化)は進んでいません。マスポート(マサチューセッツ州)やロサンジェルス港で施設の民間売却を含む民営化が検討されたことがありますが、当初、「連邦政府の資金の投入された施設の民間への売却は、連邦の損失につながる」との方針が示され、中止されました。その後、連邦の方針が変わり、「連邦の資金の投入されたインフラ施設であっても、民営化のためであれば、その売却に伴う連邦の請求権を放棄する。」との方針が示されました(ブッシュ政権)。しかし、米国の港湾では、港湾の私有化は進んでいません。港湾の運営を民間企業に委託する、民間の経営手法を導入する、施設をリースするというような広義の意味での民営化(公設民営)はいろいろな形で進行しています。

 

(英国方式)

イギリスでは、19世紀に弱小の港湾会社に代わって、港湾施設を適切に開発、維持するため港湾管理委員会がつくられました。これがトラストポート(個別の法律に基づいて設立された自治港)に発展しました。第2次世界大戦前までに、トラストポート以外にも、国営港、地方自治体港、会社港が出来ましたが、主要港はトラストポートでした。1947年、当時の労働党政権は、鉄道の公営化とともに多くの鉄道港湾を公営化し、British Transport Commissionの管理下としました。港湾の公営化です。

 

(1967年までは公設民営、その後直営化)

イギリスの港湾の所有や管理は複雑で細分化されていましたが、基本的には公設民営でした。公共部門は土地を所有し規制を行うが、港湾労働は民間にゆだねるという家主型の港湾管理者でした。これが、1967年のDocks Labour Schemeの導入から変わってきました。港湾労働者の常用雇用が義務づけられたため、小規模な港湾労働会社はつぶれてしまい、大手の会社も労働費の増加で経営困難に陥っていったのです。このため、公共の港湾管理者が港湾労働業に携わるようになり、直営方式が多くなりました。

 

(1982年以降私有化へ)

港湾ストで有名となったイギリスの港湾は、保守党政権の私有化施策のターゲットとなりました。1982年、港湾管理公社(BTDB)は株式会社ABPとなり、翌年2月、株式が一般に売却されました。1991年になると、トラストポートの私有化を可能とする法律が制定され、95年までに6港が私有化されました。その後、大きな規模のトラストポートは私有化が義務づけられ、3港が強制的私有化の対象になりました。トラストポート側は、「港湾の経営状況もよく、収益もあがっているので民営化の必要はない」と反対しましたが、既に2港が私有化されています。しかしその後、政権交代もあり、最近は、これ以上の港湾私有化を進める計画は無くなったようです。

 

 

 

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