7-3 ポートオーソリティの意思決定の迅速化
船会社や荷主からの要請の変化に的確に対応して、港湾の競争力を維持するためには、設備投資の決定やリース契約、料金政策などで迅速で柔軟な意思決定が必要となっている。このため、港湾管理者の自己責任のもとにできるだけ裁量の範囲を大きくすることが重要であるとして、カナダでは新法が提案されている。従来、年度予算、投資計画、リース契約、港湾料金の設定などは、連邦の承認事項となっており、港湾管理者の案が承認されるのに相当の時間を要する状況であった。このため、港湾に関する連邦の関与を大幅に削減し、港湾の商業化を促進することを政策の柱としたものである。
国の関与として残るものは、ポートオーソリティの設立認可、ボードメンバーの指名(一部のメンバーを除く。)のみであり、補助金の支出、債務の保証は一切しないとしている。国は、港湾において高い安全水準を確保すること、国にとって不可欠のサービスを確保すること、僻地のサービスを確保すること、国の輸送システムを高度で合理的なものとすることを目的とする施策を推進するとしている。
したがって、個々の港の開発、管理、運営についてはすべてポートオーソリティの権限の範囲となり、ボードメンバーの決定に委ねられることとなる。非営利企業となるのでその経営目標は、自社の利益最大でなく、地元の便益を最大とするようなものとなり、雇用の創出、地元経済効果を重視した経営となるが、港湾間の競争が生ずるので利用者に対するサービス水準の向上という観点では、民間経営と同様の効果が期待される。
米国においても、港湾管理者の意思決定が、市または州の拒否権により迅速さを欠くこと、ボードメンバーが政治的任命であることが多く、意思決定が非常に政治に影響されやすいこと等が問題となる。例えば、ニューヨークニュージャージー港は、ボードの決定に対して、両州の知事が拒否権をもつ。また、ロサンジェルス港では、市議会がボードの決定に対して拒否権をもっため、すべてのボードの決定は、一定の猶予期間(2-3週間)が過ぎるまで最終決定とならない。このため、港湾の民営化が議論されるが、米国の港湾は民営港を公共港湾に変更してきた歴史があるため、イギリス式の民営化に進む選択はなされていない。