第四章 世界の主要港湾における管理・運営動向(各国編)
第1節 米国の港湾管理運営
1 港湾の所有・管理運営に関する基本的考え方
米国は基本的に州が港湾に関する形態の決定に関して大きな役割を持ち、二つ以上の州にまたがる事項がある場合は連邦の承認を要するとされている。したがって、港湾の陸域に関する管理の権限は州にあり、州によっては郡(County)や市、あるいは、一部事務組合による管理を認めている。
一方、海域あるいは河川については、連邦の行政下におかれており、航路の整備、維持管理は陸軍工兵隊が行っている。泊地についてはポートオーソリティの管理下にある。泊地と航路の境界は港によって異なっているが、泊地とは一般に岸壁前面の水域と考えられている。防波堤の建設、維持管理もやはり陸軍工兵隊が行っているが、米国では、防波堤を必要とする港がほとんどなく、長期間にわたって新規の防波堤建設が行われていない。また、航路標識については、海上保安庁(Coast Guard)が設置、維持管理しているが、港湾内の標識については、ポートオーソリティが設置・維持管理している。
実際の港湾の管理・運営は州、あるいは郡、市等が法律によりポートオーソリティを設立し、ポートオーソリティの評議委員会(ボード)による自主運営が行われている。多くの場合、州、郡、市等は評議員の選定、年当初予算の承認、拒否権などを通じて関与しているのみである。評議員については、州知事や市長が指名し、議会が同意して任命されるところが多いが、ワシントン州のように住民選挙によって選出しているところもある。また、港湾管理者の決定事項について、州知事や市長が拒否権を持つ場合と持たない場合があり、州・市による差が顕著である。
2 米国公共港湾の管理形態
1996年10月、米国運輸省が連邦議会に報告した「米国公共港湾の現況」1によれば、米国に存在する港湾の数は400港以上にのぼり、そのなかの上位50港で全国海上貨物の約90%を取扱っている。ポートオーソリティの数が多いのは、ワシントン州、カリフォルニア州等であり、ワシントン州だけでも76にのぼる。また、商港的公共港湾の数は186港程度、米国港湾協会に所属して商業港として活動している港湾は86港であり、図表4-2のとおりである。
この主要86港の管理を行う行政区は以下の7種類に分類される2。
1/A Report to Congress on the Status of the Public Ports of the United States 1994-1995
2/Governance of U.S. Public Ports, David J. Olson, University of Washington, 1992