又は地方公共団体の投資により港湾インフラを整備したうえで、広義の意味での民営化が進められている。港湾サービスを競争的に提供するような条件づくりをしたうえで、リースによる借り受け者又は民間の免許取得者に全面的に任せる形態がそれである。しかしその一方で、管理者の意思決定が州又は市の拒否権により迅速性を欠いたり、政治的影響を受けやすいという側面もある。
第二の論点は、以上みてきたような港湾の管理・運営の実態が、港湾というインフラの特性とどのような関係をもって生じたものかという点である。
インフラ整備において港湾分野はとりわけ一件あたりの投資規模が極めて大きいためそれに伴う投資リスクも大きくならざるを得ないという特殊な事情がある。
航路、泊地はもとより防波堤等の外郭施設の整備等は採算性が極めて低いものである。防波堤を建設する必要がない、とか天然の大水深港で維持浚渫する必要がないといった港湾の立地上の好条件を有している港湾もあるが、こうした港湾はむしろ稀であり、今回の調査対象港の殆どでは何らかの形で外郭施設等が港湾管理者によって整備されていた。ここに港湾管理者の公的役割の一つが見いだせる。
他方、港湾インフラへの投資のリスクを考えると、契約期間中に所有権移転のみならず同事業のリスクテイクまでせざるを得ないBOT手法によるいわゆる狭義の民営化は、競争的環境下では本来的に成立しがたい(採算がとれない)性質のものである。即ち、民間事業者に操業にあたって独占的あるいは寡占的環境が契約条項上確保された場合に初めて成り立ちうるものであるということである。今回分類したカテゴリー中、世界のメジャーポートの多くが「家主型」に属していた事実は重く捉えなければならない。そこでは運営部門については、「所有権を管理者側に残したリース形態」等の“ゆるい”いわば広義の民営化の方法がとられていた。これは管理者とオペレーターの(国民と企業の)望ましいと考えられるリスクシェアリングの一形態ともいえよう。
BOT手法によってターミナルを建設する場合、一民間事業者の採算、利潤追求ベースで、港湾開発・整備が一方的に進められてしまうこととなる場合が非常に多い。当該港湾の収支ベースだけで港湾を管理・運営することが望ましくない結果を生んでいることは、すでに中南米の港湾の事例でみてきたところである。必要とされるのは、当該港湾が属する地域あるいは国家の発展といかに貢献できるかという視点であろう。
そこで港湾管理者が果たすべきもう一つの役割は、当該国あるいは地域の長期的開発・発展という視点からみた港湾発展の持続性を確保するということである。いわゆる開発途上国の港湾においては、短期的・近視眼的に港湾開発が捉えられ、BOTを導入した結果、民間セクターによる虫食いBOT(unsolicited BOT)になってしまうケースもある。この場合も港湾全体としては非効率な形の開発に終わってしまう。その意味で今後、港湾管理者側の港湾の長期計画策定及び同計画の実施・運用両面にわたる更なるソフト面での技術協力がますます重要性を増していくであろう。