8 港湾の管理・運営方式の展望
以上にみてきたように、現時点での世界の主要港湾における管理・運営手法は、公設公営による直営方式から、公設民営、更には私設私営(即ち私有化)へという大きな流れは認められるものの、各港湾が抱える固有の立地(自然)条件、社会・歴史的条件あるいは当該国政府の政策判断等を踏まえて多様なスタイルが存在しているのが実態である。従って、最も望ましい港湾の管理・運営のタイプがどれかという問いに一様に答えることは困難であり、各港湾が有する固有の立地条件あるいは発展の歴史を踏まえて評価・判断しなければならないということが結論となろう。また、当該国の発展段階、技術水準等の影響も考慮しなければならない。多くの開発途上国においては、市場経済が未成熟な段階で十分な環境条件が整わないままに民営方式だけが一方的に推進されるという矛盾が進行しているのである。
最後に、これまでみてきた世界の主要港湾における管理・運営の現況を踏まえて、今後、港湾管理者の役割として何が求められるのかについて検討したい。第一の論点は、港湾管理・運営のタイプと管理者の役割について、いわゆる先進港といわれる港湾でもその歴史的発展において公設公営から私有化への道を進んだ英国と、逆に民設民営から公設民営へと進んだ米国のケースはどのような結果を生んだかという点である。
主要港湾の多くが民間による所有及び運営(私有化)によって行われている英国では、1980年以前はその多くが公設公営によって担われていた。港湾労働者の終身・完全雇用を保障する港湾労働者スキームの存在が港湾の高コスト体質を招き、それが英国における港湾の私有化への契機となった。その一方で、ここ数年、英国においてはそれ以上の港湾(トラストポート)の私有化はあまり進んでいない。現時点においては英国における港湾私有化に対する評価は分かれているといわれている。資金調達の自由、顧客要求に合わせた大規模投資、港湾・非港湾の区別のない事業実施の自由化等による経営の効率化、競争力の増大等が積極的側面としてあげられる一方で、消極的評価として、港湾・船舶交通規制権限を競争促進的にではなく、むしろ競争を制限する目的で行使する事例等があげられている。また、私的独占による社会効率低下の可能性や、港湾機能のうち公共サービス提供における地域開発的視点の欠如等が問題として指摘されている。
他方、米国港湾の発展の歴史はそもそも民間資本(主に鉄道会社)による開発、運営が一般的であった。18世紀初めから19世紀末にかけてのことである。それが公共による港湾管理を行うようになった契機は、一社が港湾の全てを所有することによる独占の弊害が顕著化したためであった。一社独占による高利用料金、社会全体として港湾間での投資調整がうまく行われず、結果的には近隣の港湾で同じような投資をして施設の供給過剰(結果としての稼働率低下)、あるいは逆に資本不足により十分な施設が確保されない等の事態が発生した。こうして民設民営港湾から公設民営港湾へ移行したのが、ロングビーチ、シアトル、ニューヨーク/ニュージャージ等であった。そこでは、国民経済的視点からみれば便益がコストを上回るとの想定のもとで、政府