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生産性向上のための民営化の代表的な例として南米諸国(英国、ニュージーランドがあげられる。これらのケースでは民営化により採算性の意識が向上し、荷役効率の改善やコスト削減が進んだ結果、労働者一人当たりの生産性が向上するという効果がみられたといわれている。

他方、民営化の進め方によって結果が大きく分れた事例もしばしばみられた。これらの違いは、港湾整備を行う場合に競争環境の確保が管理者側でどれだけ考慮に入れたかによっている。例えば、コンセッション付与の場合、多数のコンテナターミナルのうち一つの事業者に一つのコンテナターミナルのコンセッションを与える分散付与方式をとる(レムチャバン港のコンテナターミナルでB1〜B5が各々別の民間事業者にリース又はBOTにより整備される事例)とか、コンセッションを付与したターミナルが一社専用利用にならないよう公共利用させる等によって競争環境を確保しようとするメキシコやアルゼンチンの事例がある。あるいは、管理者のコンセッションの与え方によってはBOTが民間事業者の私的独占を確保するための手段になってしまうこともある。パナマのバルボア港及びクリストバル港における民間事業者に対するコンセッション内容は開発(計画、タリフ決定権等かなり広範な権利を含むもので、ある意味では「持ち家型管理者」型港湾に近いものを民間会社に認めるようなものである(契約書によれば、国は契約企業の資本の10%を保有し、同社役員会メンバーの指名権を有することになってはいるが。)。同コンセッションによれば、港湾労働組合員の解雇及び補償金支払は国の責任とするとか、荷役オペレーションの障害となる周辺の新たな開発権の付与を禁止する等の内容まで含むものとなっている。

さらに望ましくないケースとして、管理者側に開発計画策定能力が欠如していることによって、運営効率化の要請からBOTを導入しても、民間企業ベースで野放図に開発が進められる恐れのある港湾の事例(ブラジル等)もみられた。

第三番目の市場シェア獲得のための民営化の例としては、高雄、釜山港のBOTによるコンテナターミナルがあげられる。これはライバル港のシェアを食うための競争優位確保のための投資であると考えられる。取扱貨物の需要圧力の大きな港湾では、供給力不足のため市場シェア獲得のチャンスをみすみす逃しているという認識のもとに短期間のうちに供給力を増強する手段として民営化が推進されているといえよう。

最後に特殊な例として、多国籍企業化のための民営化を進めているシンガポールがあげられる。PSAによる海外進出は、大連港のコンテナターミナル、イエメン国アデン港のコンテナターミナル運営会社への出資等にみられるように活発化しているが、2000年に予定されているPSAの株式の一般公開はこの流れを更に加速させるものといわれている。資源の少ない都市国家シンガポールでは自らの有する港湾管理・運営ノウハウ活用は重要な経営資源の一つであるとみなされているのである。

 

 

 

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