第三に、シンガポールの場合は、「設備/賄い付き家主型管理者」型港湾の特殊な例である。1996年の組織改革により、それまでPSA(Port of Singapore Anthority)の業務であった航行安全対策、許認可事務等官公庁的業務を新しく設立した別組織(MPA:Maritime & Port Authority of Singapore)に移管したうえで(97年にはPSA本体は荷役オペレーションを含む港湾サービスを主体とした100%政府出資の持ち株会社、「PSAコーポレーション」となった。それに、2000年までに株式の一般公開が予定されている。シンガポール港は、他港湾にみられるような港湾サービスの提供を民間セクターへ委ねることによって施設整備をしたり業務の効率化を図る手法とは一線を画し、PSAコーポレーション自らが一元的に港湾サービスを提供する姿勢を貫徹している。さらに、最近の動きとして自らの港湾管理・運営ノウハウを活かした海外投資活動にも進出してきている。一港湾管理者としての活動の枠を超えた“多国籍企業化”を進めているともとれるもので注目を要する事例であるといえる。
第四に、中国の沿海部にある主要港湾の中には港湾当局が主導権をもったうえでのジョイントベンチャー(JV)という形でうまく(外国)民間資本とその手法を取りいれている港湾もある。上海コンテナターミナル(SCT)(上海港務局の子会社とハチソンワンポアグループの子会社との50:50の合弁企業)を設立している上海、同様に外国民間資本との合弁でありながら港務局が50%あるいはそれ以上を保有し(コンテナターミナルを運営している天津新港、大連港の事例がそれである。このタイプは管理者直営の「設備/賄い付き家主型管理者」型に分類することにしたものの、荷役オペレーションのノウハウを民間セクター(外国資本)から導入しているという点で、「家主型管理者」により近いものと位置づけられる。
6 民営化ヘの契機
近年、民営化の進展が開発途上国にとどまらず先進国においてもその主要港湾で数多くみられるのはなぜか。民営化への動機づけは何かを再度整理すると以下の3点に集約される。
第一に、サービス水準向上(生産性向上・コスト低減)のため
第二に、中央政府の財政負担の軽減のため
第三に、市場シェア獲得のため
7 民営化の経過と課題
まず、開発途上国の港湾にほぼ共通してみられるのは、国家財政の破綻に起因する財政支出削減圧力とその結果としてのインフラ整備停滞、設備老朽化による港湾サービスの非効率化が港湾運営の民営化の推進力となっていることである。また、中央政府の財政支出削減圧力のもとで、代替資金ソースとして民間事業者の資金をあてにしているという側面もある。