2.8 高まる民間部門の役割
社会保障の守備範囲を今後、徐々に狭めていくとすれば、代わりに民間部門の役割が高まっていく。ただし民間部門の持てる力を十分に発揮させるためには各種の規制緩和や税制面の支援が欠かせない。
日本の税制は従来、社会保障に対して優遇措置を講じる一方、民間スキームを冷遇してきた。今後、社会保障給付をスリムにしていくのであれば、今まで社会保障で面倒をみてきた部分の一部が民間スキームに振りかわることになる。この部分は従来と同様に税制面でも優遇する必要性が新たに生じる。
なお日本の社会保障制度は分立しているため、給付内容・給付水準は制度ごとに違いが少なくない。社会保障給付に対するアクセスは人によって違いがあるのである。税制面のメリットも、このアクセスの違いが反映し、すべて同じとはなっていない。
税制面の特典に対するアクセス可能性を公平にするための方法はなにか。それは公私のスキームを問わず、ある一定限度まで平等に税制上の特典を与えるという方法である。民間保険に対するスキームを含めた私的な営為に対する税制は、この点からも見直すべき余地が大きい。
規制緩和も大胆に進める必要がある。日本では従来、民に対する官の不信感は強く、とくに社会保障関連分野では官が民の活動をしばったり強力な指導をしたりすることが少なくなかった。民間部門はすでに相当の力を有している一方、大競争時代を迎え変化と進歩の激しいなかで官はかつての神通力を失っている。官が民間に対して余分な「教育ママ」的おせっかいをやくことはやめ、民間のことは基本的に民間にまかす時代に移行したのである。官は競争ルールの設定およびレフェリー役にその役割を限定する。こうした観点から社会保障関連分野における諸規制を大胆に撤廃したり見直したりする必要性が大きい。