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2階民営化案は移行時における現役組(とくに中年以上)の年金負担を重くし、その生活を圧迫するおそれがきわめて大きい。企業も移行時に追加負担を強いられよう。国の財政もさらに悪化するおそれが強い。低賃金労働者や女性も割をくうだろう。そして移行のタイミングにもよるが、年金受給者も低金利の継続でダメージを受けつづけるおそれがある。

他方、将来世代の年金負担は賦課方式の場合よりも軽くなる可能性が大きい。ただし、彼らの年金給付は積立金の運用利回り次第であり、低額年金となるおそれがないとはいえない、(労働力人口の減少で国内資本は相対的に過剰となり、国内の資本収益率は今後とも低迷するだろう)。

いずれにせよ更地に家を建てるようなわけにはいかない。今、住んでいる古い家をたよりにしている人びとがすでに多いのである。ほころびが目だつからといって、その家の半分をこわし代替家屋を用意することは、コスト面でペイせず、また多数の人びとに不自由を強いるだろう。

 

2.4 年金給付のさらなるスリム化

 

「二重の負担」問題を回避しながら現行制度の主要な問題点を解決する方法は本当にないのだろうか。世界各国の年金問題当事者の最近における主要な関心の一つはこの点にあった。そして既述のようにスウェーデンで新たな解決策が1994年に提案され、その実施がすでに決められた。

その解決策のポイントは、年金給付の決め方(権利の確定)と財政方式の選択問題(積立方式か賦課方式か)を分離したことにある。すなわち現行制度がかかえる諸問題の大半(世代間の負担格差、給付と負担が1対1に対応していないこと、貯蓄と労働供給への悪影響等)は給付算式を給付建てから掛金建てに切りかえることで解決する。他方、年金財政は今後とも賦課方式を維持する。賦課方式を維持していくかぎり「二重の負担」問題は生じない。各人が老後の準備をするのは1回限りですむからである。

スウェーデン方式の知的イノベーションは「みなし運用利回り」の考案にある。

日本の場合、仮にスウェーデン方式を導入し、年金保険料の引き上げを今後いっさいしないとすれば、将来の年金給付水準(実額)は現行の半額程度となるだろう。

ドイツでも既述のように当面、年金保険料の引き上げは考えていない。そして給付の一層のスリム化に向けて様々な具体策が講じられることになった。

 

 

 

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