仮に日本もドイツの例にならって年金給付をさらに下方調整する場合、既裁定年金の物価スライド化(賃金スライドはしない)、年金受給開始年齢引き上げのスピードアップ、2階部分の受給開始年齢引き上げ(原則65歳へ)、満額年金受給要件の40年拠出から45年拠出(あるいは英国にならって49年拠出)への変更、標準年金モデルの専業主婦世帯から夫婦共働き世帯への切りかえ、給付課税の強化、介護保険料・健康保険料の年金給付からの天引き、高所得者の年金額カット等、残されている具体策は多い。
2.5 国民年金の空洞化対策
年金はいわば空気のようなものである。年金のない老後はもはや考えられなくなった。
就業者のいない60歳以上の夫婦世帯を例にとってみよう。1989年時点において公的年金額が年間収入に占める比率(「年金・年収比率」という)は、この世帯グループの場合、全体として84%に達していた。年金・年収比率80%以上という世帯が大多数を占めていた(ほぼ4分の3)。就業していない60歳以上の1人暮らし世帯でも状況はほぼ同じであり、9割弱の圧倒的多数が年金・年収比率50%以上であった(いずれも総務庁統計局『全国消費実態調査』による)。
その公的年金を老後に受けられない人びと、ないし、ごく少額の公的年金しか受けられない人びとが今、増えている。「国民皆年金」制度の空洞化が静かに進行中である。
公的年金は強制加入の制度であるといわれている。誰もがいずれかの公的年金に加入する「国民皆年金」体制が1961年に実現したと日本の政府はこれまで誇らしげに語ってきた。たしかにサラリーマンの場合、年金保険料は月給から自動的に天引きされており、制度加入を拒否しようとしても、それはできない。ところが非サラリーマン(自営業者・自由業者・無職者・学生等)の場合、国民年金への強制加入は建前にすぎない。保険料が事実上、自主納付の形となっているからである。
保険料の強制徴収は法律には規定されている。この点で保険料は税金と変わりがない。しかし強制徴収をしようとすると、それなりの手間と時間そして経費が必要となる。強制徴収の対象者が300万人もいるとなると徴収費用は莫大な金額にならざるをえない。徴収に必要となる経費の方が取り立てる保険料よりも多くかかるという場合も少なくないだろう。現に国民年金の場合、保険料の強制徴収という事例はこれまでほとんどないに等しかった。
20歳以上60歳未満の非サラリーマンは国民年金に加入することになっている。