日本財団 図書館


社会保障給付の相互調整も今後は本格的に進めざるを得ない。「生活費の二重どり」はもはや止める必要がある。病院入院中の年金受給者あるいは介護施設入所中の年金受給者の生活費は本人の受給している年金によって賄われるべき費目である。食事代や家賃相当は社会保険給付の対象からはずし、原則として全額自己負担とする方向を打ち出す必要がある。それによって社会保障負担の一部がカットされることになる。共同負担の対象とすべき部分はキュアやケアに要する費用に限定すべきである。

行政コストにも節約すべき部分が少なくない。年金の支払い通知は年1回でよい(現行では年6同)。また国民年金の第1号被保険者(非サラリーマン)の保険料は事実上、自主納付となっているため、保険料徴収に多大なコストがかかっている(保険料収入の10%程度)。国民健康保険料との一体徴収など工夫すべき余地がある。あるいは各地にある社会保険事務所・税務署および地方自治体の税務・社会保険担当部局には相互に事務の重複がある。エージェント化して人員を削減すべきだろう。

なお公共事業や農業予算も間接的に社会保障的機能をはたしている。しかし社会保障的見地からすると、そのコストパフォーマンスはきわめて低い。

 

2.2 年金危機の原因

 

周知のように日本の公的年金は現在、多くの問題をかかえている。給付が肥満気味なこと、世代間の負担格差が大きいこと、年金の将来負担が企業経営に悪影響を及ぼすおそれがあること、雇用・医療・介護・子育て支援・税制等を含めて総合的かつ整合的な観点から再検討する余地が多いこと等。

長い年月の間には当初ほとんど予想できなかった事態が生じうる。それにもかかわらず、いったん決めた給付水準は変えられないとして、それを絶対視すべきだろうか。長寿化と少子化の思わぬ進行で「将来の公的年金保険料を現在の2倍程度まで引き上げる必要がある」という話がある(厚生省試算)。しかし、それは現行給付水準不変を仮定しての話だ。

「年金危機」が叫ばれるのは、この仮定を絶対視するからにほかならない。この仮定を見直し、諸情勢の変化に適合するように給付水準も負担も変えていくとすれば、どうか。公的年金とはそもそもどういうものなのか。老後の生活安定を図るために国民すべてが青年時から強制的に資金積立をする。制度創設時(1942年)における厚生年金の制度目的は確かにこのとおりであった。しかし当時、実際に年老いた両親を各家庭内で私的に扶養していた青壮年層に向かって「自分の老後は子供や孫をたよってはいけない」といっても、彼らには資金的余裕があまりなかった。制度創設時の青壮年層だけに限定して老後の準備を2回させること(年老いた両親の扶養および自分の老後準備)は事実上できなかったのである(いわゆる「二重の負担」問題)。いきおい厚生年金の保険料は3%という低水準時代が戦後長くつづいた。国民年金も創設時(1961年)の保険料は1人月額100円であった。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION