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第2節 日本における社会保障の構造改革

 

2.1 三つの基本的論点および政策優先順位の変更

 

諸外国における最近の動向をふまえつつ日本の社会保障制度を改革するとすれば、以下の二つのポイントが重要となるだろう。

まず第1に、社会保障と経済の調和を図る必要がある。経済の基礎体力との間でバランスを欠く社会保障はかえって有害である。現役組や企業の懐具合と相談しながら社会保険料負担を今後どうするかを決めていく。社会保障の論理だけで公的負担増を求めても、現役組や企業の拒否にあう公算が強い。結果的に社会保障給付とくに年金と医療はさらにスリムにせざるをえない。

第2に、高齢者の位置づけを変更する必要がある。従来、高齢者は「みこし」に乗り、そのみこしを現役組がかつぐという格好で走ってきた。しかし高齢者が総人口の3分の1ないしそれ以上になると予想されている社会では従来の構図を変えないわけにはいかない。高齢者も能力に応じて「みこし」をかつぐ側にまわるのである。負担の公平を議論するさいには「世代間の公平」を最優先で考慮しなければならない。高齢者も応分の公負担をする仕組みを整える一方、各種の社会保障給付を受けるさいにも然るべき利用者負担を引きうける必要がある。ちなみに高齢者の経済状況は従来とくらべると随分変わってきた注23)。ただし手元不如意の者も少数派となったとはいえ残されている。言うまでもないが、このような高齢者に対する特別の配慮を今後とも怠ってはならない。

第3に、現役組の生活水準が今後とも着実に上昇するよう最大限に配慮することが望ましい。これは今後の社会保障給付を円滑に支給しつづけるための必要条件である。社会保障の財源調達にあたっても、この点に対する配慮(成長阻害度に対する気くばり)が欠かせない。負担の公平論だけでは足りないのである注24)

日本の社会保障は今後、政策優先順位を変える必要がある。高齢者の基本的生活を社会的に支えることを怠ってはならない。しかし、それ以上に重要なことは出産・子育て支援であり、人口減少プロセスを可能なかぎり緩慢なものにする必要がある(この点は節を改め、3.7節でとりあげる)。

したがって年金や医療は肥満ぎみの給付をさらに削ぎ落とす努力をつづけざるをえない。ただし高齢者向けの公的介護サービスは当面、大幅な拡充が求められている。

 

 

 

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