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1.4 イギリスの年金改革

 

イギリスは1986年の年金改革により、将来の年金負担を実質的に軽減させることに成功した。公的年金負担問題はイギリスにはもはやない。

イギリスでは1980年以降、基礎年金(1階部分)は物価スライドしかしていない。その結果、対賃金比でみた基礎年金の実質的水準は低下しつづけている。1994年時点における基礎年金1人分の給付率(対平均賃金比)は約16%であったが、このまま推移していくと2050年には7%になる(実質賃金は年率1.5%で上昇していくと仮定する)。賃金比例年金(2階部分)も当初の標準給付率(20年以上拠出)は25%であったが、1986年改革により長期的に20%に引き下げられることになった。それも49年拠出が条件である。40年弱の拠出だと長期的には15%程度の給付率にしかならない。しかも、いわゆる20年ルールは廃止され、生涯平均給与が算定ベースとなった。2階部分も長期的には実質的にほぼ半減すると予想されている注12)

女性の年金受給開始年齢(現行では原則60歳)も1995年改革注13)で長期的に65歳に引き上げられることになった。2010年から10年かけて調整する手はずとなっており、これぞ男女平等の取り扱いになる。この措置も将来の年金負担を軽減することに貢献する。

公的年金給付支払総額の対GNP比も1985年がピークで5.47%、1993年には4.47%まで低下している。年金保険料は1996年時点で18.25%であったが、2001年には17.7%、2021年16.8%、2051年14.0%と徐々に下がっていく見通しである。

このようにイギリスでは年金の負担増問題はすでに解決済みである。結果的に公的年金だけでは手元不如意になってしまう高齢者も少なくない。すでに午金受給者の15%は貧困線以下の所得に甘んじており、年金受給者の3分の1は何らかの形でミーンズテストつきの給付を受けている。年金問題は解決したが、その代わりに年金受給者間の所得格差が拡大し、生活保護予算も増大しているのである。

1997年春の総選挙直前に保守党政権は公的年金制度の全廃(1階を含む)および強制積立制度への切りかえを打ち出した。この提案は直ちにに英エコノミスト誌から「政治的自殺行為」と称された。事実、同年5月の総選挙で保守党は惨敗した。

代わりに労働党が政権を担当することになった。労働党は元来、2階部分の代行制度(適用除外制度)に反対である注14)。ブレア政権は早ければ1998年春にも年金改革案を発表する予定である。「21世紀のモデル国家」を目指すというブレア政権がどのような年金改革案を提案するのか、注目したい。

 

 

 

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