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失業率を引き下げるためには企業経営を圧迫している年金保険料をむしろ引き下げ、「目に見える形で」負担減を実現する必要があったからである(政府・連立与党は1996年の「経済成長と雇用拡大のためのアクション・プログラム」のなかで2000年までに医療保険料・失業保険料等を含む社会保険料を全体として40%未満に抑えるという目標を提示していた)。

連立与党は、このようなキリスト教民主同盟の決定を踏まえて「1999年年金改革要綱」を1997年4月にとりまとめた。そして同年6月に年金改革法案が閣議決定され、同年10月に連邦議会下院を通過した。それによると、まず現行20.3%の年金保険料を1999年から1%引き下げ、今後20年間にわたってそれを現行水準より低い20%以下に抑え込む。その見返りに付加価値税の税率を1999年から1%引き上げて16%とする注10)。一方、モデル年金給付の水準を当初の予定どおり(年金改革委員会の提案にそって)現行の70%から64%に徐々に切り下げる注11)。年金保険料は2010年時点で19.1%、2020年時点ぞ20.0%となる見込みである(2030年には22.4%)。付加価値税1%アップによる年全国庫負担増(特別枠分)は2000年時点で約150億マルクと推計されている。

障害年金の改善、被保険者の適用範囲拡大、年金保険料毎年改定の取りやめ等は年金改革委員会の報告どおりである。また重度障害者に対する老齢年金(現行60歳受給開始)も受給開始年齢を2000年から徐々に遅らせ63歳とすることになった。さらに育児期間中の「みなし賃金」は現行では平均賃金の75%となっているが、これを1998年7月から85%へ、1999年7月から90%へ、そして2000年7月から100%へと、それぞれ水準アッフ°していく。

1999年年金改革法案のうち付加価値税にかかわる部分は(したがって結果的には年金保険料の引き下げも)野党民主社会党(SPD)が多数を占める連邦参議院の同意を必要としていたが、1997年12月議会の両院協議会はその1%アッフ°の前倒し実施(1998年4月から)で合意した。SPDは、今回の改正法案が大半の年金受給者、とくに8割に達する女性の年金給付を生活保護基準またはそれ以下の給付水準に追いやるものだと強く反発していた。

いずれにせよヨーロッパ主要国の中でドイツのみが今後とも年金保険料を引き上げていくと従来、考えられていた。そのドイツも、ついに方向転換を迫られることになった。世界の先進工業国の中で将来における年金保険料の引き上げを予定している政府は日本だけとなったのである。

 

 

 

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