第3。パートタイマーの社会保険加入を促進させる。また副業による賃金収入も社会保険料賦課の対象とする。従来、月額610マルク未満の賃金収入を得ている者(パ―トタイマーや副業等に従事している者)には公的年金は適用されなかった。1995年時点において、このような短時間労働者は640万人に達していた。雇用の流動化に伴い、このような危短時間労働者は今後とも増大すると予想される。そこで、たとえば社会保険の対象となる賃金月額の限度を100マルクまで下げることが検討されている。なお自営業者のなかにも賃金と見なすことのできる所得を稼いでいる者が907万人いる。これらの者を社会保険へ強制加入させることもあわせて提案されている。
第4。年金保険料の毎年改定をやめ、積立金が給付総額の1〜1.5ヶ月分の範囲内にあるかぎり料率変更はしない。従来は1ヶ月分の給付に相当する積立金を毎年末に保有するように料率を改定していた。年金保険料は1992年が17.7%、93年17.5%、94年19.2%、95年18.6%、96年19.2%、97年20.3%と毎年変わってきた。保険料の引き上げや引き下げを頻繁に繰り返すことは年金不安をかえって高める結果となる。そこで保険料率を中期的に安定させる方向を選んだのである。
第5。障害年金の改善。健康面の障害と失業のリスクを切りはなし、障害年金は被保険者の健康状態のみを基準として給付する仕組みに改める。従来、中高年失業者の生活保障を障学年金制度が分担してきた(ちなみに1995年に傷害年金の新規裁定を受けた者のうち3分の1は失業を理由とした者であった)。これを失業保険および生活保護制度が全国的に引きうける方向に改める。障害年金給付も障害の程度に応じて2段階(100%給付、および50%給付)のみに変更する。
第6。遺族年金の改善、企業年金・個人年金の強化等。遺族年金については遺族の収入や生活状況を現在、調査中である。その結果がまとまりしだい改革案の具体的内容を決める予定である。一方、私的年金をさらに発展させるためには税制面のインセンティブを強化することが不可欠である。
以上の内容を持つ政府の年金改革委員会報告をうけて、連立与党最大のキリスト教民主同盟は1997年3月に「年金改革'99」と題する基本的な考え方を決定した。その内容は大半が政府年金改革委員会の報告を踏襲している。ただし重要な変更点もある。それは年金負担増について「保険料負担者と年金生活者が正当に分担する」という考え方を新たに打ち出したことである。政府の年金改革委員会報告では負担増は「等分に分かちあう」ことになっていた。「正当に」という形に内容を改めることにより、保険料の引き上げに否定的なスタンスを公式に打ち出し、その代わりに付加価値税を増税して年金への国庫負担を特別に増額する方向を明言した。