高齢化先進国における福祉財政の動向
また失業給付が切れても失業扶助(一種の生活保護給付)でつなぐことができるからである。いきおい中高年齢者の失業期間は長くなる。
ドイツ政府は長期失業の高齢者に対して補助金つきの雇用を促進しようとした。高年齢の長期失業者を雇用した場合、通常3年間(最長で8年間)賃金の50〜75%を補助するとしたのである(ただし若年者の首切りをした場合は適用しない)。1995年6月にはこの補助金を受給する者が3万2000人に達したという。あるいは長期失業者(年齢制限なし。ただし中高年齢者が実質的には多い)を雇用する場合、1年間に限って賃金の40〜80%を補助するという別の事業もある(最初の6ヶ月分は補助率が高く、後半は補助率が低い)。
高齢者のパートタイム就労も促進しようとしている。すなわち55歳を超えた労働者は所定労働時間の半分を働くパートタイム労働を選択することができる。そして、その見返りとして若年労働者が補充されると、55歳超のパートタイム労働には従来賃金の70%が支払われる(うち20%分は失業保険から給付される)。
ドイツは失業者の増大に頭を悩ましているが、この背景には企業による社会保険の悪用(社会保険へのツケまわし)があることも否定できない。企業行動の典型としていわれているのは次のパターンである。まず55歳で退職させ、失業給付(そして失業扶助)で60歳までつなぐ。ただし55歳退職直前における手取り賃金の90%所得保障を約束し、失業給付・失業扶助ぞ足りない分(差額)は企業が企業年金給付の形で補う。60歳からは長期失業者用の早期退職年金に給付が切りかわる。
1992年段階では60歳から早期退職年金を受給しはじめる者の割合(老齢年金受給開始者総数に対する割合)は20%にとどまっていた。ところが、この割合は1994年には40%に急上昇し、1995年には45%に達している。
55歳〜59歳の失業者向けに連邦雇用庁は最近では年間250億マルクの負担をしている一方、60〜64歳の早期退職年金負担は350億マルク(1995年)に及んだ。総額ぞ600億マルク(1マルク=75円換算で4兆5000億円)の負担となっていた。
ドイツでは1992年年金改正法により、早期退職年金の支給開始年齢を2001年より少しずつ遅らせることになっていた。しかし、もはや2001年まで待てなくなった。ドイツ政府は失業対策とワンセットの形でこの問題への新たな対応を迫られた。
ドイツにおける年金制度は基本的には1989年11月9日に連邦議会で可決された1992年午金改正法(実施が1992年からであったため、このように呼ばれている)に基づいている。この法案が連邦議会ぞ可決された日の夜、たまたま「ベルリンの壁」が崩壊し、ドイツ分断に終止符がうたれた。この日は2重の意味で記念すべき日となっている。1992年年金改正法は画期的な内容をもっていたからである。ネットスライド制への切りかえ(自動調整メカニズムの導入)、支給開始年齢の原則65歳化(弾力的取扱いの段階的廃止)と62歳からの繰上げ受給容認、部分年金制度の創設、国庫負担の増額と保険料率の自動的調整(国会の議決を不要とした)等々注9)。