この間の保険料は国庫が負担する。育児期間については兵役期間とならんで保険原則を適用しないという特別措置を講じた。年令制度にとって育児は兵役とならんで特別例外扱いに値するほど重大なことなのである。
なお傷病手当や失業給付を受給中のサラリーマンについても年金権が保障される。それぞれの手当・給付が年金対象賃金とみなされ、それぞれの保険者が年金保険料を納付することになる。生涯賃金ベースの年金という考え方を徹底させると、こうなるのだろうか。
このほかに、いわゆる15年ルールも廃止される(年金給付は生涯賃金に基づく形に変更し、高賃金期間15年ベースの年金裁定をやめる)。
改革は2001年から20年の経過期間をもうけて段階的に進められる。なお今回の改革には障害年金は含まれていない。障害年金は老齢年金制度から分離され、傷病手当金制度との統合が計画されている。
1994年時点と今日のスウェーデンで大きく違うのは、実質経済成長率がプラスに転じたこと、および出生率が予想外に低下してしまったこと(1996年の合計特殊出生率は1.6弱)、の2点である。1998年は総選挙の年であり、1994年時点における年金改革の合意内容は今後一部変更される可能性がある。
スウェーデンは人口870万人の小国であるものの、「外科手術」をいとわない、きわめて進取の気性に富んだ国民性をもっている。そのチャレンジ精神には見習うべき点も少なくない。
1.2 ドイツの年金改革-1996年改革/中高年失業者の再雇用問題との関連
ドイツをはじめとするヨーロッパの主要国におけるもっとも深刻な政策課題は今日、失業問題であるといっても過言ではないだろう注6)。ドイツの失業者数は1996年に400万人を越え、失業率は10%超となった。ドイツ政府は1996年に「2000年までに現在の失業者数を半減させる」という目標をかかげ、「経済成長と雇用拡大のためのアクション・プログラム」を決定した。そのなかで公的年金制度の見直しも行われることになった注7、8)。
ここではドイツにおける中高年失業者の再雇用問題から述べることにしたい。
中高年になってから失業すると、再雇用される可能性はきわめて乏しい。この点はとくにドイツにおいて顕著である。中高年齢者は総じて賃金水準が高いため事業主サイドに首切りのインセンティブはあっても、再雇用への意欲はきわめて弱い。また中高年齢者本人が再就職をそれほど強く希望しないという点も無視することができない。50歳以上になると失業給付の受給要件が寛大になる(58歳以上では再就職の意思がなくても受給可能である)。