3]「選択の自由」の最大限尊重
受給開始年齢は61歳以上であれば何歳でもよい(70歳まで)ことになった。状況は人によって異なる。その違いを重く受けとめ、何歳からでも可能とした。ただし早くから受給すれば、その分だけ毎月の給付額は少ない(保険数理に基づいて減額される)。ちなみに65歳受給開始時の給付額を100とすると、61歳開始の場合70、62歳77、63歳83、64歳91である(現行の減額率は1歳あたり6%であるので、減額率は拡大された)。他方、70歳支給開始の場合は162となる(現行では144であるので、増額率も拡大された)。なおフレキシブルな年金受給開始とするので、従来の部分年金制度は廃止される。いずれにせよ掛金建てへの移行によりスウェーデンは年金支給開始年齢問題から解放されることになった。
さらにプレミアムリザーブ分(積立部分)については終身受給方式だけでなく、5年間受給、10年間受給のオプションつきである。
くわえて年金の「所得分割」も希望すれば認められることになった(1954年生まれ以降の者のみ)。これは夫婦の間で婚姻期間中にかぎって賃金を合算し、その2分の1ずつにたいして、それぞれが年金請求権をもつ方法である。カーター政権時代のアメリカで提案されたものであるが、アメリカでは今のところ認められていない。カナダ、スイス、ドイツ等で部分的に採用されている。日本でも1995年4月から遺族年金に第3の選択肢が加えられたが、その基底にある考え方は所得分割案に限りなく近い。
なおスウェーデンは遺族年金を事実上、廃止した国として有名である。年金は完全に個人単位化された(結婚の有無や配偶者の有無に関係なく年金給付は決まる)が、男女間の賃金格差は今もってなお歴然としている。賃金が相対的に低い女性に強い不満が残っていたが、所得分割の容認で、この不満は解消されるだろう。
4]物価スライドから賃金スライドヘの切りかえ
スウェーデンの公的年金はこれまで物価スライドが原則であった(ただし現実には物価スライドが完全には実施されず部分実施されることが少なくなかった)。物価上昇率以上に賃金が上昇すれば、年金受給者の生活水準は相対的に低下していく。経済成長による果実を高齢者にも分けあたえるためには物価スライドでは不十分である。そこで賃金スライドヘ切りかえることになった。ただし賃金が毎年1.5%(実質)ずつ上昇していくとあらかじめ仮定し、その分だけ新規裁定時の年金給付を高めに設定する。そして毎年物価スライドで走るという特殊な方法を採用する。このため見かけは物価スライドのままである。物価スライドに慣れた国民には、この方がわかりやすいのだろうか注5)。