1.1 スウェーデンの年金改革
スウェーデンは1960年以降、高福祉のモデル国として称賛されてきた。高邁な社会保障哲学のもとに世界をリードする役割を長年にわたってはたしてきた。年金の分野においてもイギリス・北欧タイプの典型を示し、ドイツ・フランス等とは異なる制度のなかで高い給付水準を実現してきたのである。
そのスウェーデンが最近、変わりつつある。1991年以降、スウェーデン経済は3年連続で実質マイナス成長を記録した(91年マイナス1.1%、92年マイナス1.4%、93年マイナス2.2%)。国民の享受しうるパイの大きさが年々小さくなったのである。現役労働者は生活水準の切り下げを余儀なくされた。失業率(失業対策事業従事者を除く)は1993年時点ぞ8.2%と高く、かつてのスウェーデンとはまったく異なる様相を示している。
そうした中で1994年に年金改革の基本的枠組みが与野党合意のもとで決められた注1)。その内容は以下で紹介するように、きわめてドラスティックである。平等主義思想は大幅に後退し、「これが本当にスウェーデンなのか」と思わせるような方向に進もうとしている。
年金はその国の社会経済の産物である。かつてのスウェーデンは経済の高度成長を亨受し失業率もきわめて低い、経済の優等生であった。その経済が変調をきたしているのである。年金も変わらざるをえない。
1]掛金建て制度への切りかえ
周知のようにスウェーデンの公的年金は1階が定額、2階が所得比例の2階建てであった。それを所得比例型に一本化する。いわばドイツ・フランス流の大陸型への変更である。それも給付建てから掛金建てへの切りかえという形で断行しようとしている。
欧米諸国の公的年金は従来、給付建て(確定給付型)であった。典型的には拠出1年で月給のX%に相当する年金給付(または定額の給付)を支給するというものである。1年の拠出で月給の0.75%に相当する年金給付を約束している日本の厚生年金もそうである。どれだけ拠出したか、運用利回りはどの程度であったかは給付決定のさい考慮されない。これが給付建ての基本的考え方である。
他方、掛金建て(確定拠出型)は次のように考える。給付はどれだけ保険料(掛金)を拠出したか(金額ベース)、および運用利回りが実際にいくらであったかによって決まる。事前に給付はなに一つ確定しない。確定しているのは掛金率(保険料率)だけである注2)。