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第I部 高齢化先進国における福祉財政の動向-年金改革と日本の課題

 

高齢化先進国における福祉財政の動向-年金改革と日本の課題

 

は じ め に

欧米の主要国では近年、社会保障の構造改革が大胆に進められている。公的年金改革もその一つである。主要国のなかで公的負担増を今後予定しているのは日本政府のみであり、他はおしなべて公的負担率の据えおき、ないし、その引き下げすらも考慮中である。いきおい各種給付の切り下げという難事業にとりくまざるをえない。過剰ぎみの給付を一部切り下げるのであれば問題はないが、給付切り下げは総じて新たな別の問題(貧困者層の増大、所得格差の拡大等)を引きおこしかねない選択である。本稿では諸外国における最近の典型的なとりくみについて、主として公的年金に焦点をあて、そのいくつかを具体的に紹介する。そして日本の社会保障制度とくに年金制度を中心とした今後の課題を論じることにしたい。

 

第1節 スウェーデン・ドイツ・イギリス・アメリカにおける最近の年金改革

 

OECD加盟国は人口高齢化が進んだ国が少なくない。増大する高齢者を社会的にサポートしつづけることは決して容易でないが、各国ともその国力に応じてそれなりのサポートを継続している。苦い経験から導き出されたOECD諸国の教訓は「社会保障は自国の社会経済の体力にあわせて給付・負担両面の調整をしていかざるをえない」というものである。現役組の生活水準が上昇しなくなると、かれらの肩にかかる公的負担(社会保険料負担を含む)を引き上げる余地はほとんどない。そうした状況では給付面での調整しか選択肢は残らない。一方、現役組の生活水準が着実に上昇しつづけるかぎり公的負担を実質的にふやす余地が生じる。その場合、現に公的負担増は受けいれられている。社会保険料の引き上げは企業や現役組の懐具合と相談しながらやっていかざるをえない。

以下、典型的だと思われる事例をいくつかとりあげることにする。

 

 

 

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