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続的な教会などの民間非営利福祉団体が理想としている身体と精神の双方を含む「全体的介護」(ganzheitliche Pflege)の理念がおろそかにされているといわれている。現在の収入黒字をここに使うべきであると多くの者は主張する(Handelsblatt, 1998. 7. 17)も前述のごとく、今まで政権を握っていたCDU系の労働社会省は、それはクッションであると考えている。1998年10月より政権を握ることになったSPDが現行の介護保険に関するこれらの課題をどう解決するかは今後にかかっている。とくにニーズが高まってきた「痴呆性老人」の取り扱いについて、認定のために「特別程度」を設けるか、要介護程度の数を今のIIIから日本のように増すのか、いずれにせよいち早く解決せねばならない課題もあるからである。

 

おわりに

 

1998年9月27日のドイツ連邦議会(下院)の総選挙でSPDが第一党となり、緑の党との連立によって、16年間続いていたCDU/CSU/FDPの保守党連立を退陣させ、政権交代が行われた。政策課題としては、税制改革、環境税、原発廃止、失業対策、外国人の国籍問題、育児手当追加、子供の体罰禁止法等々当面する課題は山積している。そのような中で、高齢者に関わる年金改革や医療改革の検討は遅れそうであり、介護保険についても根本的な変化は近い将来はないように思われる。しかし、多くのものが痴呆性老人が要介護認定から落ちこぼれていることに不満を抱いており、介護サービスの内容についても、時間に拘束されない「包括的介護」を望んでいることから、この分野で何らかの新しい対応はなされねばならないであろう。

最後に、「介護保険」を通して日本人とドイツ人が問題視しているテーマを比較して感じたことだが、日本では介護保険の社会制度的な対策に大変期待を寄せているように思われる。女性の社会進出とか、コミュニティーの連帯などというテーマと関連して興味深い議論をよく聞く。これに比べると、ドイツでは「介護保険」とは、極めて直截的で、「財政」と「家庭」の問題に絞られているようである。しかし、「家庭」という社会単位が崩れつつある現代社会において、そのマイナス面のニュアンスを進めず、その本来的な役割や「温もり」を与えるネストとしてのプラス面での増進を願うとすれば、それも悪いとは思えない。とくに現代社会の暗い側面が多く現れてきた西欧社会においては重要なのかも知れない。

図表43は最近行われた「ドイツ人にとっての価値と美徳」についての意識調査結果を示している。「休暇」や「財産」の数値をみると、どこまでこの世論調査が信じられるのか疑問だが、旧東ドイツと旧西ドイツともに「家庭」がトップになっている。

 

 

 

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