日本財団 図書館


ほとんどの者がおよそ肯定的に評価していた。つまり、すべての費用がカバーされると期待してはいけないが、「介護保険」が導入されてよかった、と答えるものが多かった。とりわけ、長い間介護し続けてきている人は、現物給付(プロのヘルパー)によって何時間か自分の時間ができたことの喜び、また、在宅介護サービス機関を選べることも家族には良い評価を与えている。(ちなみに、ドイツでは10日間の契約廃棄の予告で機関を変更することができる)。
しかし、上述のように、介護保険に定められた現物給付額は微々たるものにすぎないので、実際の日常の在宅介護という労働の完全な報酬とはなりえず、その補足でしかない。なお、多くの場合、ヘルパーに来てもらっても、家族の介護者の手助け(ベッド作りや入浴など)も同時に必要なようだ。そのためであろうか、ドイツでは日本のように「ケア・プラン」をめぐる討論はほとんど聞かれない。ほとんどの州においてはサービス機関や特養自体が行っており、苦情の場合のみメディカル・サービスがそれを行うことになっているという。

従って、要介護程度があまりひどくなく、また要介護者との関係が昔からうまくいっていた者、心から「介護をしたい」と思う者、自ら退職しているか高齢の者(この数は約50%と推定されている)、そしてなにかの理由(例えば育児など)でどうせ家にいる者は現金給付を選んでいる。その方が、自分の好きな時に、好きな人に来てもらえるとか、かえって他人が来ると気を使うなどの理由を挙げる者もいる。
その他に、介護をしているという社会的承認があるとか、「義務をはたしている」、「おかえしをしている」などという「自己満足感」があるという意見もある。実際に、介護は社会的労働として見られることとなったので、介護者の年金も毎月貯蓄されていく(ちなみに現金給付400マルクに対して200マルクが毎月年金額として支払われている。(図表35参照)上に、労災保険もきくようになっている。なお、現金と現物給付の組合わせもあるが、これ以外に、現物給付で余った金額は割合計算で現金給付として要介護者に支払われる仕組みにもなっている。

要介護者自身の意見を聞くのはなかなか困難であるが、あるものは自分の年金と介護保険の現金給付が介護してくれている家族のものにまわっていることを知り、「それじゃ、まだ生きているかいがあるのか」と言う高齢者もいる。

確かに、介護保険をめぐる問題は、介護者も要介護者の多数も女性であることから、結局は女性問題だといわれる。ドイツでは1995年の時点で在宅介護の約80%は家族・親族が行っていた。その61%が配偶者だが、24%は娘が行っていた。また、79歳以上の高齢要介護者に限ってみれば、44%が娘、そして17%が嫁によって介護されているという数値がでている(Kuratorium : Rund Ums Alter...参照)。嫁が介護するのは日本よりは少ないにせよ、かなり高い割合といえよう。もっとも、図表36が示すように、1970年以降、女性の社会進出などにより、「娘-介護潜在力」は減少している。従って、今後は在宅介護サービスや施設利用者が増えるであろうが、概してドイツ人

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION