保険の内容と比較してみると、いっそうはっきりしてくるかと思われる。
1) 介護保険はドイツの社会保障制度のもとに、「世代間契約」(Generationsvertrag)を基本理念として賦課方式を取り入れ、「第5番目の社会保障の柱」として導入された。「世代間契約」を基盤としているのは、日本と似ている。
2) これまで税金による「社会扶助」(Sozialilfe、日本の生活保護のようなものだが)の受給者を「自己支払者」(Selbstzahler)にする目的があり、その他の保険分野の赤字を補填することも計算にあったといえよう。この点も日本の場合と同じだと思われる。
3) ドイツでは、介護保険システムとくに給付を行う運営体となる「介護金庫」(Pflegekasse)が独立した法人として疾病金庫(Krankenkasse)の中に併置され(1994. 6. 1)、介護行政の中心的役割を果たすことになった(図表23と24を参照)。これは日本と違う点で、日本では市町村等自治体が給付等運営の主体をなすことになっている。
4) 保険料は国民祝日を一日削るという「軽減措置」をとることで、労使折半となり、保険料率は税込み収入の1.7%と定まった。ドイツでは国庫負担がないのは日本と違う点であろう。
5) ドイツでは要介護者を三つの「介護程度」に区分し、また給付額の上限も決め、これ以上は出せないという「蓋」(Deckelung)をかぶせた。(図表25と26参照)
この規定額については日本の方が高くなるといわれている。
日本では「介護程度」として五つの区分を考えているようだが、その軽度の「要介護支援者」に当たるのがドイツにおける「程度0」に相当すると思われる。「程度0」とは、介護保険導入後の特養(特別養護老人ホーム)等における認定で、「程度I」から格下げになった者が、そのまま施設にいられるように設けられた新しい程度である。なお、「特別(最)重度要介護者」(これはエーズや末期ガン患者の程度)もいるが、これは一つの介護金庫につき3%と決められているので、「過酷度」の要介護者は少ない。
6) ドイツで要介護認定を行うのはメディカル・サービス(MDK)という一般開業医でない医師や介護士を集めた第三者的な組織のみで、基本的には州に一組織ずつ存在する。「かかりつけ医」とか「家庭医」や介護支援専門員は、この場合関係しない。この点は日本と違う。
また、ほとんどの州では在宅介護サービス機関や特養自体が要介護者のケア・プランを無料で作成する。しかし、バーデン・ブュルテンベルグ州のようにメディカル・サービスが最初からケア・プランを立てることとした州もある。メディカル・サービス機関の要介護認定に要する報告書はかなりのボリュームではある。しかし、日本で予定されている要介護者の基本調査(部分だけ)と比べると、質問事項は少ないように思われる(図表27は、ノルトライン・ヴェストファーレン州のものである)。