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6.4 市場経済と公的セクターとの共生

 

ソビエト社会主義は市場経済を持たず、経済基盤の行き詰まりから制度そのものが崩壊してしまった。その後、急速に市場経済の導入に努めたが市場経済が成立する基盤が存在せず、さらに深い経済危機に陥っている。社会主義は健全な市場経済を持たなかったために行き詰まったと言える。しかし、自由な市場経済も万能でないこともまた事実である。米国のように市場経済への信奉が余りにも強い社会では、貧富の差が拡大しており社会不安の根が深い。例えば、1997年の調査によると米国では現在16.1%の国民が医療保険を持っていない(Kuttner, R.;1999)。つまり必要な医療を受けることが出来ない。その数は4,340百万人に及ぶ。デンマークの人口の8倍にもなる数である。先進諸国の中でこれほどに医療保障を受けることのできない国は少ない。現在、米国の経済は好調であるが、このような問題のあることを忘れてはいけない。つまり、市場だけで社会の安定を築くことはできないと言うことなのである。

健全な市場経済のない、つまり健全な財政的裏付けのない社会では公的問題を解決する財源を得ることは出来ない。しかし、過度に競争原理のみに依存する市場主義だけでは社会の安定は得られない。そういうことが19世紀後半からの産業化に伴って出現し、今に至っている社会保障制度のあり方に方向変換を迫っている。ということは、冷戦体制の崩壊まで続いていた絶対的公共性と絶対的市場主義がともに理念的に崩壊したことを意味している。今問われているのは、市場経済と公共性をいかにバランスを持って維持するかという新しいパラダイムなのである。

デンマークを含む北欧諸国は冷戦時代には、ソビエトからは資本主義の市場経済を行っていることから偽社会主義社会だと批判され、また米国からは社会保障を徹底し、大きな公的セクターを持つことから偽資本主義社会と批判されてきた。東の風と西の風の両方から攻められながら、自らの道を歩み続けてきたのが北欧諸国である。北欧諸国は正に市場経済の基盤を維持しながら、その果実によって公共サービスを充実した社会と言える。イギリスの過激な社会主義を主張してきた労働党で、中道左派の道を主張したトニー・ブレア首相が唱える第三の道は、北欧型のバランス社会を想起させる。
現在、先進諸国は19世紀から冷戦体制終焉までの古い政治・経済・社会構造のパラダイムから新しい領域へと移動している。しかしながら、今のところは、かつてのように資本主義か社会主義かといったような目指すべき明確な理念構造が出来てはいない。この小論で見たデンマークにおける様々な試みは、新たな道を探る試みの一部だとすることができるように思われる。欧米諸国の多くは、めまぐるしく変動する世界への適応のために敏感に対応策を模索している。そうした中で日本は相変わらず従来の制度に依存しているようで、この対応の遅れが重大な結果に導かないことを祈らざるを得ない。年金、医療をはじめ公的介護保険なども問題解決にはほど遠く、今

 

 

 

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