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第5章  新たな動き:グレステッド・ギーレライエ市の入札による民間参入

 

グレステッド・ギーレライエ市(Grested-Gilleleje、人口20,000人)は1996年7月から高齢者福祉サービスをスウェーデンの企業キュレイトゥス・シニア社に事業委託し始めた。275ある自治体における初めての試みであり、国や他の自治体から成り行きに注目が集まっている。

グレステッド・ギーレライエ市は首都コペンハーゲン市の北約40キロメートル位置し、人口は約2万人である。老齢基礎年金の受給対象年齢67歳以上は3200人にのぼる。

市議会の構成人数は19人であるが、保守系の自由党(Venstre)が11人を占め単独過半数を獲得している。民間の入札制度導入に関しては、自由党全員を含む13人が賛成。社会民主党と革新系の社会主義国民等の6名が反対した。

この入札に関しては、全国で初めてということもありかなり議論が活発に行われた。この小さな自治体でも反対運動は起こった。200人余りの市民が市役所にデモをしたり、2800人の反対署名も集められた。しかし、市議会において保守・自由党系が圧倒的過半数を保持していたことから、この新たないる社会実験はすんなりと実現してしまった。また第二市長であるラース・リュッケ・ラスムセン氏は現在自由党全国組織の副党首ということもあり、自由党のイデオロギーの実践にことのほか力を入れたことは間違いない。

民間参入といっても、高齢者福祉は自治体の責任業務であるし、財源は市民が支払う住民税である。この点、他の自治体とは変わらない。違いは、サービスを提供する職員が地方公務員から民間会社の職員になったことだ。行政責任はあくまで市にあるから、半年に一回の利用者意識調査をしてサービスレベルが維持されているか絶えず目を光らせている。1998年前半の調査では、85%の利用者はキュレイトゥス・シニア社のサービスに満足しており、10%はまあまあだと答え、5%が否定的であった。

98年秋に行われた調査でも結果が良好であったことから、1998年11月の市議会では、2000年の入札では、全ての高齢者福祉を競争入札にすることが決議された。250〜300人ほどの職員の雇用は保障され、6千万クローネ(約12億)の年間運営費が用意されている。入札では、現在の職員を使うこと、現在のサービスレベルを維持することが条件としてあげられている。同じ議会では、下水処理事業も現在の自治体事業体と民間企業との競争入札にすることが決められた。

資料によるとグレステッド・ギーレライエ市で高齢者福祉サービス事業を行っているキュレイトゥス・シニア社は、1969年に設立されている。1993年にスウェーデン南部の都市マルメ(Malmo Kommune)で高齢者福祉の事業に関わり始め、1997年に

 

 

 

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