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4.5 サービスの品質管理

 

福祉サービス法(Social Service Lov)によって275の市町村は、高齢者福祉で提供されるホームヘルプサービスの品質目標を少なくとも年に一回、市民に対して明示しなくてはならなくなった。ホルベック市では、法律になる前から市議会の決定で品質明示のパンフレットを作っていた。しかもホルベック市では市民代表の高齢者委員会もパンフレットの制作過程に参画して利用者としての立場で主張を行っている。もちろん現業職員の代表も参画する。

ホルベック市では、掃除、身体的介護、配食サービス、洗濯、緊急警報、デイセンター、地域総合センター、リハビリテイション、移送サービスなどのサービス品質明示パンフレットを既に制作したか、現在制作中だ。ここでは、掃除と身体的衛生介護サービスのを紹介して、どのようなことが書かれているのか見てみたい。

これを見て分かるように、書かれている内容は詳細にわたっている。デンマークの福祉では納税者は同時に、前払いをしている公的サービスの消費者でもある、あるいはあり得る。当然、消費者には支払った対価である行政サービスの質を知る権利があるし、行政側には決められた品質を守る義務がある。市場経済では当然のことになってきているが、ここまで行政が自ら提供するサービスについて、責任を持って品質表示している国はまだ無いのではないだろうか。他に例を見たことがない。しかし民間において、消費者の権利が次第に保障されてきている先進諸国の現状からして、行政サービスにも同様な要求が今後起こることは予想されることである。その上で、民間と競争できるサービスは行政に残し、民間のほうが効率が良く、質の高いサービスを提供できるなら、それは民間に移行することになるだろう。その意味で、ホルベック市が示しているような行政サービスの品質表示は新しい試みとして注目されている。

ホルベック市では年に一度、行政と高齢者委員会とで見直しが行われる。例えば、98年高齢者委員会は、個人的介護の中にある「朝食は朝10時までに済ませる」という項目を9時までにできないかと行政と交渉した。しかし行政は、今の市民の要介護度に対して、配備されているホームヘルパーの人員では努力目標にはできるが、サービスの保証はできないとデータをもとに議論し、高齢者委員会も納得した。あるいは、ホームヘルパーが余り忙しそうで、声をかけるのさえためらってしまうが、できれば掃除など不十分でも一緒に話をする時間が欲しいという声が市民から高齢者委員会を通じてあがったケースでは、「話し合い」という新たなニーズをニーズ判定表に入れて、そのような人と話すニーズのある人には掃除とは別に対応することが合意された。
このケースでは、新たに人員を補充するのではなく、買い物の配達が可能な場合は自己負担にしてもらい、その分浮くヘルパーの時間を「話し合い」に使うということで、財政的な新たな負担を伴わず解決している。高齢者自身が何を優先するかということで、行政は優先順位を決めるのである。こうした決断には、当然高齢者自身の責任が付随する。影響を持つということは責任を持つことでもある。民主社会が成熟するためには、このような権利と義務の相関性が、参画している人々に明確に意識される必要があるだろう。

 

 

 

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