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I部 スウェーデン

 

スウェーデンの高齢者福祉医療対策

 

訓覇法子

 

改訂にあたって

 

1993年、最初の報告書を出した時点では、スウェーデンは経済危機の真っ只中にいた。エーデル改革も施行されたばかりであり、当時の保守系政権によって家庭医制度も導入されるという、非常に不安定な時期であった。

それから7年、不況の長期化と前代未聞の高失業率に悩んだが、社会民主党政権は財政建直しに成功し、経済は好転に向かった。エーデル改革は財政危機と重なり、しかも施行前の詳しいデーターを欠くところから、客観的な評価は難しいとされるにしても、改革が肯定的な効果をもたらしたことは関係者のみならず世論の一致するところである。スウェーデンが財政危機に直面しながら、ニーズの高揚に対して高齢者ケアの質をそれほど落とさず対応することができたのは、福祉と医療の統合と資源の効率的利用を意図した行政改革によるところが大きい。

反面、エーデル改革はひずみももたらした。しかし、ひずみの内容は改革をさらに充実させるための発展的過程の問題だといえる。医師レベルでの医療サービスへのアクセスの不十分さやホームヘルパーの医療知識の不足は、脱医療化がもたらした過渡的問題といえる。これらの問題に対して、政府は98年高齢者対策の国政目標と基本方針を明確にし、地方自治体に対する長期的な財政援助を開始した。さらに、公共による高齢者事業(フォーマル・ケア)と高齢者の家族および近親者によるインフォーマル・ケアの融合を目的として、家族・近親者への支援・援助を重視しさまざまな援助を強化している。高齢者と家族QOLの向上はケアの質の向上とともに、今回の高齢者政策の重要な目標である。

いずれにしても、高齢者ケアの「質」の向上が現在のスウェーデンの国政目標であることは、量的なケア資源の拡充に悩む世界先進国と比較すると一足先を行くといえよう。しかも、限られた経済成長率の下で、公共部門の効率化をはかり、ケア資源の一層の有効利用を試みるスウェーデンの経験から学ぶところは大きい。さらに、経済的要因ではなく個人のニーズを尊重した普遍的なケアやサービスの供給を目的とするスウェーデン型福祉国家の努力は並大抵ではないものがある。

今回の報告書は、このような最近のスウェーデンの努力の内容と到達点、さらに問題点を正確に紹介することが、日本の高齢者対策の参考になると考えて書かれたものである。したがって、制度の紹介もさることながら、日本の高齢者ケアの発展に示唆を及ぼすと考えられる経験に焦点をあてた。スウェーデンの高齢者対策は、伝統や政治文化の異なりはあるものの、社会が高齢化および少子化に対応するためのシステムをどう構築するかという点では、普遍的な共通の課題であるといえる。経済危機を経験し、高齢化問題では一足先を行くスウェーデンの努力は、さまざまな意味で興味深い。

 

1999年1月31日、Stockholm

訓覇法子

 

 

 

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