
少しづつ川下に流されたので、流されては元の位置に戻ることを繰り返している内に、妙なことに気が付いた。最初に停泊した時、小庭の左舷側をφ20cm程の黄色のBouyが川上から川下へゆっくりと流れていった。暫くしてそのBouyが小艇の右舷側を川下から川上に向かってスーイスーイと上がって行くのを見た。「そのようなことは有り得ない」と思いつつ、監視することとした。Bouyは小艇の川上に達しては再び川下に向かって動き始めた。若しやダイバーが居るのではないかと川岸を見ると自転車が1台と、その横に大型のクーラーボックスが置いてあるが人影は見えない。直ちにエンジンを停止して川面を注視する。気泡が上がってくればダイバーが居ることになる。

しかし遂に気泡は上がってこなかったが、Bouyは再び川上に向かって上り始めた。「おかしい」。その時、川下から○○警察と表示した水上パトロール艇が上ってきた。
余程PASystemで声を掛けようと思ったが「変なじいさん」と思われるのではないかという気持ちが先立ち声は掛けられなかった。水上パトロール艇は中川放水路を上って行った。
そこで、昔教わった落水者救助の要領でこのBouyを拾い上げることとし、右舷をBouyに添えて停船し、ボートフックでBouyを引っ掛けようとすれどBouyは私を椰う如く右によ寄り、左に寄り、遂に小艇の右舷から船底を潜る快挙にでてきた。再び左舷側でボートフックでBouyを引っ掛けた。簡単に引き上げられると考えたが、川底の原動力は私の腕力を遥かに上回っていた。どうしても引き上げることができなかったので、船縁とボートフックを梃子にして引き上げた。Bouyには真っ青な藻に包まれた約1m程の鉄の鎖、そしてその先に紡綱が繋がれていた。そこで、ボートフックを紡綱に掛け直し再び梃子の力で40cm程引き上げたところで、途端に川底の原動力が外れたのか、私は尻餅を付き頭から水しぶきを被り、危うく落水するところであった。
原動力は果たして何であったのか?魚だろうか?河童だろうか?それとも川の妖精であったのか?気を取り直しBouyを川に戻した。どうだろう。Bouyは川の流れに全く関係なく、再び川の中央の方向へとスーイスーイと動いて行った。時計は12:10を示していた。「あ、そうだ。私には仕事があったのだ。」小艇を夢の島の沖合約1ケーブルの位置に戻し、ch26で「横浜電話」を呼び出しマリーナと通話し、検査継続中であることが分かった。

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