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体育科学センター第11回公開講演会講演要旨/運動中の事故死について


運動中の事故死について
村山正博*
 運動を積極的に行うことにより健康を増進させ,各種の疾病が予防されることが広く信じられており,ジョギングやランニングなどの運動が今や国民的ブームとなっている.また,心筋梗塞をはじめとする虚血性心臓病患者に積極的に運動を行わせることにより,その回復をはやめ,心機能の改善をはかるいわゆるリハビリテーションに運動が役立つことは臨床の分野で常識となっている.
 欧米では死亡率第1位が心臓病であるが,そのほとんどが動脈硬化からくる虚血性心臓病で“heartattack"といえば,これをさしている.従って,その予防,治療に対して行政面からも多くの努力がなされており,医学の面からも多くの研究やその臨床応用が行われてきている.予防に関しては予防心臓病学(Preventive Cardiology)という1つの分野が確立しており,また,臨床面では心筋梗塞リハビリテーションや運動療法専門の病院や施設も数多い.本邦では残念ながらこれらの分野の専門家も少く,また,運動療法の専門施設もない.生活様式が欧米化すると共に,虚血性心臓病が増加してきており,その予防対策が急務となってきており,運動の意義が漸く社会的関心を呼んできている現況である.また広く疾病を予防し,体力を増進するために運動を奨励することが学校教育の中でも重要な地位を占めてきている.この様に学童から成人に至るまで運動が日常生活の中で重要な部分を占め,それにコマーシャリズムが加わった形で国民的ブームとなっている.
 しかし,一方,ジョギングやランニング中の急死事故が新聞などで報ぜられることが目につく様になってきた.そのほとんどは予想されない様な状況下でしかも突然に起こるので,社会的衝撃も大きい.健康増進や疾病予防・治療のために運動を行い,それにより死亡してしまうのではその目的に沿わないことはいうまでもない.運動も薬と同じ様に両刃の剣であって,使い方により薬にも毒にもなる.当然,使いすぎは逆効果であり有害となることは当然である.自分の体力を過信し,適応以上の運動を行い事故を起こしてしまうことは極めて残念なことである.ここでは本邦における運動ブームの陰にある事故死について,その実態や急死の機序,対策などにつき述べ運動の正しい利用法について考察してみたいと思う.



*関東逓信病院
於:国立教育会館大会議室 昭和58年7月9日



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