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体育科学センター第11回公開講演会講演要旨/日本人の身体発育とその将来像


2)学校保健統計からみた身体発育の年次推移
 80年にわたる学校保健統計の資料から学齢期の青少年の身体発育が年次的にどのように推移してきたかを知ることができる.
 図9は6歳から17歳までの男子につき,各年齢ごとの身長の年次推移を示したものである.これをみると,戦時中の食糧事情その他のため最も大きな影響を受けたのは思春期であること,そして,その後の生活状態の改善により,急速に追いついたのも思春期であったということがよくわかると思う.
 図10は同じ学校保健統計の資料から身長の年間増加量を示したものである.思春期の急増のピークが1939年から1950年へと高年齢の方に移動しており,晩熟化していたことがわかる.その後,1960年,1970年と急速に若年の方に移動し,つまり早熟化したのであって,これを思春期促進現象とよんでいる.現在ではその傾向もやや停滞している.
 このような早熟化傾向あるいは発育促進現象の停滞を裏づけるものとして図11をあげることができる.これは1955年と1979年について,鹿児島,東京,岩手の都県を比較したものである.1955年の段階では東京に対し,鹿児島,岩手の両県はピークが高年齢に偏っていたが,1979年の段階ではピークを示す年齢にほとんど差がみられなくなったことがわかる.
 なお,以上のように学校保健統計を利用して身体発育の年次推移を検討しようとする場合,統計資料の背景となる多くの条件を考慮する必要がある.たとえば,戦前の資料と戦後の資料とでは教育制度の相違など,具体的にいえば現在の中学校教育は義務教育だが戦前はそうでなかったことなどを勘案しなければならないという意味である.図12は,昭和41年度生まれの児童生徒の発育の特殊性を示したものであり,特殊な条件が背景にあった場合に留意すべきことを示唆している.


図9
男子児童・生徒身長の年齢別年次推移

図10
男子身長年間増加率の年次推移

図11
岩手,東京,鹿児島の都県における男子身長
年間増加率の推移

図12
各年齢における身長の出生年度による推移
(学校保健統計より作図)


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