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体育科学センター第10回公開講演会講演要旨/日本人の健康の将来像


生活時間が変ってレジャー時間は今後一層増えるであろうから,積極的なレジャー時間の過ごし方を工夫することは国民健康の立場から是非とも必要である.
 資料にあるとおり,生産エネルギーとしての人力は減る一方である.人力による仕事量が激減し,潜在労働力としての高年者にはますます自由時間が多くなる.レジャー活用の工夫は若者にも必要であるが,高年者にとって一層切実であろう.健康で活動的長寿を目指すには,レジャーを積極的に活用する以外にあるまい.
 以上10〜20年後を一応の目安として,日本人の健康をめぐる条件を予想したのであるが,問題点の主なものをまとめてみよう.
 ?一般状況
 ○人工増加(12,000〜13,000万程度)
 ○高文化安定型人口構成に近付く(矩形型)
 ○寿命は世界的にトップクラスにある.
 ○身体大型化(ただしトップクラスではない)
 ○一般体力増強
 ?反健康因子
 ○高齢者層増大(活動的長寿に努力)
 ○虚弱者,慢性患者,障害者など増加(健康・体力の回復向上,社会復帰に努力)
 ○3大死因(がん,脳卒中,心臓)は不変(医学をはじめ健康関連科学の進歩応用に期待)
 ○有病率(成人病を主とする)増える
 ○公害,森林荒廃の改善おぼつかない(日本人の良識と実行力次第)
 ?生活条件
 ○朝寝,'夜行型の生活
 ○仕事時間短くなる
 ○レジャー時間増加(積極的レジャー活動の工夫,とくに高年者に対する工夫)
 ○摂取cal,食品構成はあまり変らない.(身体運動に消費するcal.と関連して合理的なcal量と食品構成の工夫)
 このような状況の下に,10〜20年後の日本人の生活をほぼ想像できるであろう.問題は2.の反健康因子である.(  )の中にその対策が書き入れてあるが,高年者に対する活動的長寿にしても,虚弱者などの体力向上,社会復帰にしても,成人病予防,摂取ca1の合理的消費にしても,いずれも対策として具体的には身体運動の実行がその中心となるのである.既述の通り身体運動は身体面だけでなく,精神能力のトレーニングともなるが,とくに活動的長寿を目指す高年者には,同時に自発的(単なる記憶や真似でない)で,ある目的または目標をもつ精神作業を実行することを将来の日本人の健康のために強く奨めたい.
 古代から現在まで約2000年の歴史の中で,日本人の骨格はかなりの変動をしている.
 a)身長:2000年の間に相当巾の増減の波があって,弥生時代から古墳時代にかけて高くなり,それ以後次第に低くなって江戸時代後期には史上最低の身長を記録している.明治以来徐々に高くなっているが,1800年以後とくに1950年からの増大ぶりはすさまじい.この波は生物的な周期現象の可能性を思わせる部分もあるが,1900年以降の動きについては後に述べる.
 b)頭蓋指数(頭巾/頭長,鈴木):中世紀に全体として長頭化の傾向があったが,それ以後一貫して短頭化がすすみ,山陰・近畿にはじまった短頭化地帯は急速に拡大して今や日本全域に及んでいる.
 c)脛骨指数(脛骨長/大腿骨長,森田,寺沢):古代から徐々に増大の傾向はあったようであるが,現在では身長の増加とともに脛骨指数は明らかに増大している.これは比座高の低下,下肢長の増大という日本人の体型変化と連るものであろう.
 全身的な骨格も,顔のような局所的な骨格も,環境,生活,栄養などの条件によって変化することは否定できない.とはいえ日本人の最近の骨格変化は何に原因するのか,なお不明というほかあるまい.
 原因の如何はともかく,現実問題として,日本人の骨格は今後も大型化の傾向をつづけるであろう.しかし国際的にはなお大型民族には入らないと思われる.
 

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