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体育科学センター第10回公開講演会講演要旨/日本人の健康の将来像


5.反健康因子

 上に述べたように,将来も死因上位を占めるのは,脳卒中,がん(胃がんは減り,肺がんが増える傾向がある),心臓病であろうが,ここでは直接生活に関連する4項目の反健康因子,すなわち運動不足,栄養問題,公害,生活時間の配分,の将来を推定しよう.
 a)運動不足:これは反健康因子の1つとして,ことに成人病と関連が大きい.運動不足が原因または動機となって現われるいろいろな症状を説明する過程図がある.
運動不足と心身症との絡み合いを理解できよう.また身体運動の重要性を極端に示す表があるが,これはそのまま運動不足の危険性を教えている.健康維持のためにも,冠障害予防のためにも身体運動の効果が明らかに認められる.
 運動不足の生理的あるいは臨床的意義については多くの詳しい実験報告がある.身体運動というものは身体面のみでなく,精神面の健康にも極めて重要なものであることを十分に認識すべきであろう.運動時に筋や関節からの内部刺激が大脳皮質細胞に活性を与え,活動水準を高めることが知られている.
b)栄養:1935年頃,日本人1人1日当りの供給cal.は2,256calあったが,戦争直後1946〜1950年頃は2,000cal以下となった.しかし1979年には2,505calと増加している.摂取カロリーもそれに平行して増加しているであろう.ただし欧米の3,300calには較ぶべくもない.
 食品構成では含水炭素(CH)が減って,動物性食品(動物性蛋白と脂肪)がふえている.一般に食習慣というものは改めることが容易でないといわれるが,日本では比較的急速に食品構成が変っている.1970年ごろからほぼCH,P,Fの割合は安定しかけているが,その後もCHの割合は漸減している.三食とも米食の人は1970年に63%あったが,1980年には55%に減っているという.それに代って動物性食品がふえ,蛋白と脂肪の摂取の割合が漸増している.このことは日本人の体格体力の向上に大きく役立っていることはたしかであろう.しかし一方では心臓病などの増加に関係しているといわれる.
 とはいえ心臓病の発生率は欧米に較べてなお数分の1にとどまっている.したがって日本人の食品構成に,今よりあまりPやFを増やさない方がよいという意見も強い.
 食品構成の推移からみても,日本人の体格の規模からみても,今後の摂取calと食品構成に,あまり急激な変化はないものと考えられる.しかし摂取cal,CH,P,Fの割合,身体運動による消費ca1分との合理的な関係を考えることは,今後の国民健康の上に極めて重要な課題になるであろう.
 c)公害:多くの公害や汚染のうちで代表的なものとして,水質,C02,大気有機成分の変化を見よう.資料にあるとおり,水質も大気の汚染も部分的には近年やや好転回復の兆しを見せているけれども,未だとても満足するには程遠い.
 C02の増加は現在のところ主に火山爆発によるものであって,その増え方も大気全体としては殆んど無視できる程度である.勿論生物に影響を与えるものではない.02も今のところ21%を保っている.しかし02,C02を握っている森林の荒廃は無視できない.地球上の広い面積にわたって森林が消滅しつつある.日本は山岳地帯が多いために森林量の多い国として知られていたが,今や平地の森林は皆無に等しく,山の森林も乱伐が重なるばかりか,間伐などの手入れを欠き,全国的に赤肌の山や,雑灌木,雑草の生うるにまかせた山が目立っている.人工造林の予定も思うように進まないと聞いている.さらに松喰虫の被害はまことに目を覆うばかりである.美しい空気と清らかな水と,そして深い緑の国土こそ,日本人の健康に大きく貢献してくれるものであろう.それらはすべて豊富な森林によって果されるのである.日本人の良識と実行力を信頼しよう.
 d)生活時間:まず睡眠時間であるが,NHKの調査によると,1960,1970,1980となるにしたがって,日本人は全体として朝寝型,夜行性の生活をするようになったらしい.資料では朝6時に起きている人の割合の変化を示している.この傾向は従来都市型生活といわれていたが,今や全国的に拡がっていて,一口にいえば,日本人が朝寝で夜行性になったということである.これは夜業種のふえたこと,夜が明るくなったこと,一般に仕事時間が短くなり,夜も疲れずに余暇として活動が可能なことなどによるのであって,今後もこの傾向はつづくであろう.朝寝や,夜行性の生活が健康に直接どう関係するかは分らないが,現在とくに若者たちの夜の過ごし方には健康的とは言えない場合が多いように思われる.
 

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