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体育科学センター第10回公開講演会講演要旨/日本人の健康の将来像


2.日本の人口

 縄文時代の人口は約150万といわれる.これが現在80倍に増加して12,000万近くになっている.日本の人口は古代から中世にかけて緩やかな増加をつづけていたが,1500万あたりを契機に明らかな増勢に転じ,1800年以降の増加はまことに著しい.日本の歴史にも大きな戦争,大餓飢,大災害などがあって,これらは勿論人口に大きな打撃を与えたであろうが,長期的にみるとすべて一過性のもので,日本の一貫した人口増加の大勢には何のあとかたも残していない.これは大災害や大餓飢によって人口の抑制があってもその後直ちに生物的な代償追付き現象が強く発動するためであって,日本人の生命力の強さを証明しているものといえよう.
 戦争や災害が死亡増,出生減の形で人口を一時的に抑制する事例を2,3紹介しよう.
 a)1700〜1800年の頃,有名な享保,天明,天保の三大餓飢があったり,大洪水や疫病の大流行などがあって,これが死亡数を増し,出生数を減らせて人口増加を抑制したのであるが,いずれも比較的短期間で代償し追付きが完成している.
 同じ事情が1981年の人口構成図をみても分る.ここでは戦争,疫病,災害のほか,迷信(丙午)までも一時的に人口を抑制することを示している.しかし1950年以後はそのような抑制因子は日本ではあまり起こっていない上に,医学,衛生学,薬学その他健康関連科学の進歩と応用によって死亡率が激減し,出生率が低いにもかかわらず人口は増加しつづけている.推計によれば2000年代のはじめに13,000万に近付くという.いずれにしても日本人の人口はなお当分増加をつづけることは確かである.
 b)人口増加の内容:資料にみるとおり,出生率も減ったけれども,死亡率ことに乳児死亡率の低下が目ざましい.これは勿論医学,衛生学など健康関連科学の進歩と応用による部分が大きい.これが結局日本人寿命の画期的延長となって現われたのである.そしてこれは科学研究成果の大きなプラス面として高く評価されている.しかし,これには必然的にマイナス面も伴っていることは否めない.
 (1)高年齢層の増大………寿命延長自体は勿論望ましいのであるが,かりに活動的な長寿といっても,高年齢層の増大は日本人全体の活動力の水準を低下させる因子となることは已むを得ない.(!980年の寿命は前年をやや下廻っている)
 (2)健康関連科学の進歩と応用によって,国民は莫大な恩恵を受ける一面・これは同時に自然淘汰に対抗する強力な手段となって,1.虚弱者,2.障害者,3.慢性病患者(成人病をふくめ)の増加という結果をともなうことはさけられない.
 (1),(2)ともに日本人全体としての活動水準を低下させる因子として働くであろう.これらに対する合理的な解決法を見付け出すことは,今後の日本人の重要な課題になると思われる.
 C)人口の年齢層別構成:人口の構成図は国民の活動性についていろいろの面を語っている.
 非文化的社会では,一般に多産多死で,出生率が高く,同時に死亡率も高いので,人口構成は底辺の広く背の低い三角型(ピラミッド)になる.高い死亡率は病気,栄養不良,虚弱など人間の側にある内的因子のほか,戦争とか災害,餓飢など外的な反健康因子によるのである.この低文化不安定型人口構成と対照的なものは,高文化安定型の人口構成であって,出生率は低いが死亡率も低く,病気や栄養不良などはなく,かりに病気があっても高い治療技術を持っているので治病率が高い.また戦争や災害などの外的な反健康因子もないというものである.極端なことをいえば,例えば100歳まで死亡0,したがって毎年死亡数だけ出生する.100歳になるまでは1人も死なない代りに100歳になると皆死んでしまう.このようなわけで人口は一定に保たれるから,人口構成図は背の高い矩形になる.ただし矩形の両辺(出生数と寿命)をどの位にするのが適当かは立場によって意見があろう.
 どの国,どの時代も,この両極端の人口構成の中間型または混合型を示すのである.しかし将来われわれの目指すものは,高文化安定型の構成にできるだけ近付くことであろう.ただし上述のように矩形の規模についてはここで論じる余地はない.



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