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体育科学センター第10回公開講演会講演要旨/日本人の健康の将来像


日本人の健康の将来像
朝比奈一男*

 これは将来像といっても,大体10年あるいは精々20年後の将来を目指した予想である.
 国民の生活は勿論のこと,その健康や体力は時代の自然環境と社会条件によって決定的な影響を受けることは疑いない.日本人もその2000年の歴史の中で,自然と社会の変動や出来事によっていろいろな影響を受けてきた.とくに近年になって,第1に自然環境の大規模な開発と汚染があり,第2に社会条件の急激な便利化自動化があり,さらに第3には科学技術の画期的な進歩と応用とがあって,これらが日本人の生活と健康・体力に大きく影響していることは間違いない.この影響には勿論好ましい面も多く,われわれは莫大な恩恵を受けているが,同時に好ましくない面も決して少くない.いずれにせよその実態をみることが必要である.

1.日本人の骨格

 古代から現在まで約2000年の歴史の中で,日本人の骨格はかなりの変動をしている.
 a)身長:2000年の間に相当巾の増減の波があって,弥生時代から古墳時代にかけて高くなり,それ以後次第に低くなって江戸時代後期には史上最低の身長を記録している.明治以来徐々に高くなっているが,1800年以後とくに1950年からの増大ぶりはすさまじい.この波は生物的な周期現象の可能性を思わせる部分もあるが,1900年以降の動きについては後に述べる.
 b)頭蓋指数(頭巾/頭長,鈴木):中世紀に全体として長頭化の傾向があったが,それ以後一貫して短頭化がすすみ,山陰・近畿にはじまった短頭化地帯は急速に拡大して今や日本全域に及んでいる.
 c)脛骨指数(脛骨長/大腿骨長,森田,寺沢):古代から徐々に増大の傾向はあったようであるが,現在では身長の増加とともに脛骨指数は明らかに増大している.これは比座高の低下,下肢長の増大という日本人の体型変化と連るものであろう.
 全身的な骨格も,顔のような局所的な骨格も,環境,生活,栄養などの条件によって変化することは否定できない.とはいえ日本人の最近の骨格変化は何に原因するのか,なお不明というほかあるまい.
 原因の如何はともかく,現実問題として,日本人の骨格は今後も大型化の傾向をつづけるであろう.しかし国際的にはなお大型民族には入らないと思われる.


*中京大学
於:国立教育会館大会議室 昭和57年7月17日


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