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体育科学センター第9回公開講演会講演要旨/運動の習慣化と成人病予防


運動の習慣化と成人病予防
井川幸雄*

 原始時代はヒトが日々,食物の獲得に死力を尽し苛酷な肉体活動を強いられた時代であった.近く,第2次大戦前後のわが国においても,日常の食糧獲得の困難,交通機関の破壊などで肉体活動を強いられることが多かった.しかし,昭和30年代以後,産業構造や技術革新により肉体労働が削減され,その日常生活様式は第2次大戦以前の人々にとっては夢想もできなかったものが実現した.すなわち自動車に代表される機械文明で,これが運動不足病(hypokinetic disease)をもたらすにいたった.この種の疾病の多くは成人病と言われ,中高年者の健康生活を脅している.そして,この問題は単に中高年齢者個人の問題としてばかりでなく,わが国の人口構造の変化にともなう労働人口の高齢化や中高年齢者に費やされる医療費との関連で俄かにクローズアップされてきた.とくに,昭和58年度の国民医療費推計は20兆円が見込まれ,各企業や地域社会の関連機関ではこうした近年の高福祉,高負担時代における中高年齢者の「健康・体力づくり」対策に余念がない.
 さて,成人病とは高血圧病,心筋梗塞,脳卒中,癌,糖尿病などのような主に30歳代から60歳代の働き盛りの人々に多く発病する疾病の総称であり,癌を除き動脈硬化,高血圧などに関連する循環器疾患で,これらのうちの多くのものが,運動療法の対象となることが見いだされた.とくに冠状動脈疾患は,そのrisk factorとして喫煙,高脂血症,高血圧,肥満,運動不足,精神的ストレスがあげられ,習慣化された運動によって予防または解消される.
 ここでは,成人病のうちとくに心臓血管系疾患と関連の深い血液成分と身体運動について自験成績を中心に述べる.


*東京慈恵会医科大学
於:国立教育会館大会議室 昭和56年7月11日



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