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体育科学センター第9回公開講演会講演要旨/幼児の調整力と幼稚園のカリキュラム

 5.幼児のけんけんぱ一跳び

 森下は数種のリズミックパターンについて,口でリズムを言う,手でたたく,下肢でけん・ぱーを跳ぶの各々を課し,未熟な場合,「わからないからやれないのか」「わかっているけどやれないのか」を「定位」部分と「遂行」部分にわけてしらべた.3歳をすぎるとこの種のリズムの理解はできるが,遂行様式に難易度があり,ことば,手の動作・下肢の動作の順に難かしくなってゆくこと,3,4歳児では動作調整に外からのことばかけや,自分の発語をともなうが,動作の上達にともないそれが内語化してゆくことを報告している.

 6.幼児の速度調整とタッピング・歩行

 森下・鈴山らは,幼児の掌による打叩動作を片手・両手交互,両手同時について緩・序・急の三速度でおこなわせ,動作パターン,打叩圧,打叩数を分析した.各動作と,3速度の分化が不充分な幼児ほど動作調整が不充分なこと,とくに“ゆっくり叩け”の指示では,動作の振巾,打叩数・打叩圧ともに抑制され,遂に“はやく叩け”の指示でそれが三者とも亢進するという結果をえた.猪飼のいう,動作調整のtiming,grading,spaceingの分化ができず,亢進,抑制とも汎化することがうかがえる.
 また,森下は,一定距離の直線歩行を緩・序・急の三速度でおこなわせ,運動カリキュラムに重点をおくA圏と,言語カリキュラムに重点をおくB圏を比較している.それによると,運動群では立巾跳など筋力・パワー系能力に優位をしめし,動作速度の調整や抑制に関しては言語群がまさっている.

 7.幼児施設の体育的カリキュラムと調整力

 以上,いくつかの調整力発達にかかわる研究結果を紹介した.これらの結果から,幼児期の調整力の発達が,運動器系の成熟と発達ばかりでなく,認知や言語発達とも深くかかわっていることが推察できる.体育カリキュラムの設定にあたり,運動の量と強度を高めてゆくことは,はじめにのべた自由度の拡大をうながすために必須のものである.しかしその限界については,われわれはまだよい指標をもっていない.幼児期の柔軟な適応能力が,限界値への懸念を払拭してしまいがちだ.体育を重視しながら,同時に体育に偏しすぎない保育カリキュラムが,調整力の発達を保障するといえる.


参考文献
1)マイネル・K:動作学.萩原・綿引訳,新体育杜,1980.

2)Bower.T,G.R.:Deveiopment in Infancy 乳児の世界.岡本他訳,ミネルヴァ書房,1979.

3)岩田・森下:幼児の動作メカニズムとその発達.体育学研究24-3,1979.

4)発達2,ミネルヴァ書房,1980.

5)森下はるみ:けんけんぱ一跳びの発達,体育科教育.

6)森下はるみ:幼児の動作調整能の発達,体育科学6,1978.

7)鈴山尚江:幼児の急速反復動作の調整機序.お茶の水女子大,文教育学部卒論1980.

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