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体育科学センター第9回公開講演会講演要旨/幼児の調整力と幼稚園のカリキュラム

 2.乳児の到達・把握動作

 Bowerは,乳児がモノの方向や距離,大きさをどう認知してゆくかを動作反応を手がかりに分析している.たとえば,重さに対する到達・把握動作は次の通りである.

6〜7ヵ月・・・・・・
モノの重さと関係なく,できるだけしっかりにぎる.握力はいつも一定.
モノを持つとその重さで腕が下がり,その後,望ましい位置にひきあげら
れる.何度くり返しても同じで,重さへの予測がまだない事をしめす.
9ヵ月頃・・・・・・
モノを把握したあと,その重さに応じて筋緊張を加減できる.何回くりか
えしても同じで,やはり重さの予測ができない.
1年頃・・・・・・
1回目は力とモノとの対応がないが,2回目からは重さに応じた力で把握す
る.始めとちがうモノ,たとえば2倍の大きさのモノを見せても動作は1回
目と同じ.「予測のルール」がまだできない.
18ヵ月頃・・・・・・
まだ把握したことのない対象でも,その重さえの予測がみられ,大きければ
大きいように手の操作が変わってくる.


 以上の結果は乳児の動作調整機構がどう発達するかをうかがわせる.まず6〜7ヵ月頃には,学習効果のないステレオタイプ型反射型動作,9ヵ月頃には,触覚的フィードバックによる動作の修正,1年頃には先行経験の学習効果とそのフィードフォワード,18ヵ月頃には視覚的フィードバックによる調整回路の発現……などである.

 3.幼児の立幅跳

 岩田・森下は,幼児の立巾跳について,課題条件による反応を“できるだけたくさん跳びなさい”という課題と“この線まで跳びなさい”という線による明示について跳躍距離,動作パターンをみた.年齢別にみると2歳児では課題条件が変っても跳躍のフォームや距離との対応関係はみられなく,偶発的でステレオタイプな動作があらわれる.3歳になると“この線まで”という線による明示が,“できるだけ”という言語指示による量・質ともに高い反応をひきおこす.4歳,5歳と年齢がすすむにつれ,視覚的指示と言語指示の差が縮まってゆく.
 川原は,学齢期以後の立巾跳について,距離予測と動作結果のズレが年齢とともに縮少することを報告している.その結果をみると,“とびすぎ”年の減少の方が,“とびたりなさ”よりはつきりした年齢傾向をしめし,動作の抑制系の発達が年齢と対応することをうかがわせる.

 4.幼児の手の“にぎり”“ひらぎ”

 田中昌人らは,“にぎり”“ひらぎ”動作をゴムバルブの空気圧変動によって記録した.2歳頃には、“しっかりもって”という指示に対し,持続が困難ですぐはなしたり,ゆるめたりする.“もって”,“はなして”に対応できるようになるのは2歳半頃である.3〜4歳になると,“しっかり持ちつづけて”という指示に対し,途中で力がゆるんできても,自分で気づいて握りなおすという自励効果がみられ,4歳には左右の交互きりかえや片手だけの開閉ができるようになる.7歳になると,時間を線の長短でしめした課題にあわせて,“少しつよく”とか“少しよわく”とか“だんだん強く”とか“だんだん弱く”といった中間値や上昇・下降系列でにぎりを調整することができ,10歳になると絵と対応させず言語的イメージだけでできるようになる.
 これらの結果は,phasicな動作より,kineticなものの方が幼少児で困難なこと,その持続のために内言語による自励効果がみられること,時間概念は視覚的空間的なものから言語的なものに内在化してゆくことなどをうかがわせる.


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