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体育科学センター第9回公開講演会講演要旨

幼児の調整力と幼稚園のカリキュラム
森下はるみ*


 1.動作における自由度の拡大と抑制

 ヒトの表情のさまざま−喜怒哀楽ばかりでなく,渇き,満腹,たいくつ,好奇心−そんなさまざまな心情に対応して表情は変化する.いったい幾種類くらいあるかの問に,ある人が”表情筋の数のべき乗だけある”とこたえた.表情筋がもと2個なら2の2乗で4通り,3個なら9通り,4個なら16通り……と対数的にふえるので,実際には,可能な表情の数はぼう大な値になる.
 同様にBemsteinは,関節の自由度からみると全身で240通り,腕だけで30通りの自由度があるとのべている.(マイネル,動作学より引用).実際には,この関節自由度に・さらに筋収縮の持続性やスピードといった時間系列の要素が加わり,その上,外的要素一重力,慣性力,空気抵抗などが加わるので,その結果,動作の自由度は天文学的数字になる.  体力要素のうち,筋力の肥大や,心臓や肺の容量の増加など機質的変化は,さきにのべた”自由度”の拡大化につながる.また調整力は,Bernsteinが動作協応を”自己運動する器官の過剰な自由度の克服”とのべているように,自由度の組織化,抑制化としてとらえることができる.
 石河は,調整力とは”心理学的な要素を含んだ動きを規定するphysical resouces”とのべ,猪飼は,よい調整力の条件として,(1)大脳における運動の企画,設計がよいこと,(2)大脳からの運動インパルスが運動神経にうまく配分されること,(3)フィードバックがうまく利くこと,(4)促進と抑制がよくきくことをあげている.これらの考え方を幼少期の動作発達についてみてみると,原始的反射運動が優位な乳児前期には調整力はまだあまり問題にしなくてもよさそうである.それにつづく幼児期錐体路系の組成学的な成熟がすすみ,言語を習得し認知機能が発達するこの時期こそ,調整力発達のsensitive periodといえる.ここで調整力の発達のかかわりのある幼少期の研究をいくつかみてみたい.


*お茶の水女子大学
於:国立教育会館大会議室 昭和56年7月11日


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