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高齢者の歩行能力に関する体力的・動作学的研究(第2報)
−膝伸展,足底屈,足背屈の筋力と歩行能力の関係−

 ところでヒトの全身持久性能力(狭義の体力)は,各個人の呼吸循環機能と密接に関連することから最大酸素摂取量で評価されている.この最大酸素摂取量は再現性も高く,国際的にも広く採用されている1).しかしながら,最大酸素摂取量の測定には,特定の機器や専門的技術が必要であることはよく知られている.また最大酸素摂取量を測定するためには被検者に対し最大運動を負荷し,疲労困憊に至るまで運動を行わさせなければならず,特に高齢者の最大酸素摂取量の測定には危険性を伴う.さらにフィールドで多人数の最大酸素摂取量を測定することは困難である.これらの問題を解消するために考案されたものが踏台昇降テスト,12分間走や5分間走である.しかし,踏台昇降テストと最大酸素摂取量とはあまり相関関係が認められないと報告4,5,9)されており,12分間走や5分間走で広いグランドが必要である.そこで次に屋内でも実施可能なシャトルランチストやシャトルウォークテストといった持久性テストが提唱された.本研究において2年(平成9年と平成10年)連続して体力測定に参加した46名中平成9年と比べシャトルウォークの距離が増加した者は20名,減少した者26名であったが,男性25名のシャトルウォークの平均値(±SD)は,平成9年で214.8(31.8)mと平成10年で214.9(25.6)m,女性のそれは平成9年で211.7(16.7)mと平成10年で211.2(14.2)mであり,男女のシャトルウォークの距離は2年間ほとんど変化しなかった.  20歳の最大酸素摂取量値を100%とした場合,最大酸素摂取量の1年当たりの低下率は約1%であることが知られている1).また田路ら12)はシャトルウォークの1年当たりの低下率は1.02%であると報告しているが,本実験では1年後におけるシャトルウォークの低下率は男女とも0%であった.また昨年よりシャトルウォークの距離が増加した者と減少した者との間において,日常生活におけるからだを動かす量や歩行距離とシャトルウォークの距離の増減との間に明らかな関係は認められなかった.すなわち,アンケート調査で「昨年と比べからだを動かす量は多くなったか?」,「他の人と比べ1日に歩く距離は多いと思いますか?」,「昨年と比べ歩く距離は少なくなったか?」と言う問に対し,昨年よりシャトルウォークの距離が増加した者と減少した者との間に一定の傾向は認められなかった.現時点では,何故1年経過したにもかかわらず高齢者のシャトルウォークの成績が男女とも変化しなかったかの原因については不明であるが,ある意味ではシャトルウォークからみて,今回対象となった高齢者の全身持久性能力は1年間変化しなかったといえないだろうか.ただし,全身持久性能力を示す指標としてのシャトルウォークの再現性(変動係数)についてはさらに検討を要すると思われる.
 なお平成9年と平成10年共に各被検者の肺活量を測定したが,昨年の測定値と比べ本年度の値は平均500mlほど多かったため結果として提示しなかった.この理由として使用した自動肺活量計のタイプの違い(日本光電社製,フクダ電子社製)もさることながら両肺活量計を使用する前に校正器を用いて校正を行わなかったことが主因であろう.この不正確な肺活量測定は反省材料とし,今後の測定・調査に生かしたい.また今年度の体カテストで聴力や視力測定の実施を希望する者(6名)がいた.これらの点に関しては今後の検討課題としたい.


Table 1-3. Results of physical fitness test in totals



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