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高齢者の歩行能力に関する体力的・動作学的研究(第2報)
−膝伸展,足底屈,足背屈の筋力と歩行能力の関係−

 日本人の平均寿命は年々延長し,昨年の日本人平均寿命は男性77.1歳,女性83.8歳で男女とも世界最長寿国となった.そして厚生省人口問題研究所の推計によると,2050年における全人口の65歳以上が占める割合は32.2%に達するという11).この理由として,日常生活における衣食住環境の改善や医療の進歩,健康の維持増進に関する情報の浸透などが考えられ,それによって多くの日本人が長生きできるようになったという喜ばしい結果であるといえよう.しかしながら,一方では高齢化に伴い高血圧,腰痛などといった慢性的疾患,さらには寝たきりや痴呆の介護を必要とする高齢者が増大し,老人の医療費増大が深刻な問題となっていることも事実である.このような情勢下において高齢者の健康や体力の維持増進を図ることは,これらの問題解決や彼等が自立した生活を営むために不可欠な課題の一つであると考えられる.
 本研究では,介護を必要としない自立した日常生活を営んでいる高齢者の生活習慣や体力の現状を明らかにし,高齢者の体力向上さらにはより健康で豊かな高齢化社会づくりに貢献するための基礎的資料を得ることを目的とした.

 研究方法
 1.調査対象
 今年度の調査対象は,昨年度と同様である.すなわち,昨年(平成9年)度においては富山県南西部の庄川町に在住する60歳以上の男女高齢者を対象にアンケート調査と体力測定を行った10).今年(平成10年)度の対象者は,昨年のアンケート調査および体力測定に参加した者と今年度の調査および測定に参加を希望する者である.なお庄川町の人口はおよそ7,500人で庄川が山間部から富山平野に流れ出る扇頂(扇状地の開始)に位置し,農業や木工業が主要な産業である7,8).各被険者には,町内会の世話人から本研究の主旨を説明していただき,それに同意した男性40名,女性29名を対象に体力測定とアンケート調査を実施した.体力測定およびアンケート調査は,平成10年9月6日から8日の3日間行った.

 2.体カテスト
 今年度の体力測定は,健康な60歳以上の高齢者69名(男性40名,女性29名)を対象とした.ただし,69名の対象者の内,男性25名,女性21名は昨年度の体力測定にも参加しており,残り23名は今年度初めての者である.
 対象者の体力の経年的変化を把握するために測定項目はできるだけ前年度と同じくした.すなわち,平成10年度の測定項目は,平成9年度の項目(身長,体重,安静時血圧,安静時心拍数,肺活量,長座体前屈,背中握手(右手上と左手上),開眼片足立ち,閉眼片足立ち,単純(光)反応時間,全身反応時間,シャトルウォーク)に握力とファンクショナルリーチを加えた.ただし,平成9年度の測定において歯磨きの有無が呼気中亜酸化窒素濃度(Nitrousoxide:N20)に影響することが明らかになったことから,平成10年度においては呼気中亜酸化窒素濃度の測定を行わなかった.
 安静時血圧と肺活量は,水銀血圧計と聴診器および肺活量計(電子スパイロメータ,Sp-310,フクダ電子社製)を用いて測定した.
 柔軟性の項目として,立位体前屈では被検者が測定中にバランスを崩して転倒することも考えられることから長座体前屈の測定を実施した.また肩関節の可動範囲の指標として背中握手を実施した.すなわち,各被検者に対し体育館の壁に5cm間隔でラインを引いた校正用の用紙の前に立ち,背中で両手を掴む(握手する)あるいは両手が触れるように努力することを要請し,その状態をカメラで撮影した.現像したフイルム(焼き付けた写真)から,両手指先間の距離を計測した.もし左右の指先がお互いに触れていない場合には,触れていない距離をマイナス,触れているあるいは重なっている場合には,その距離をプラスとして表わした.なお右手を上にした時と左手を上にした時の2回測定した.
 単純(光)反応時間と全身反応時間は,反応時間測定装置(竹井機器社製)を用い,それぞれ3回測定した.すなわち,単純(光)反応時間の測定では,各被検者に対し椅座位で前方に設置したランプを注視し,ランプが点灯するや否やできるだけ早くボタンを押すように指示した.また全身反応時間の測定では,各被検者に対し体育館の床に置いた測定盤の上に立位で膝を軽く屈曲した姿勢を維持し,前方に設置したランプが点灯するや否やできるだけ素早く上方に跳躍するように指示した.
 持久性テストとして,木村ら6)の方法に従いシャトルスタミナウオークテスト(ShuttleStamrinaWalkTest:SSTw)を行った.まず体育館のフロワーに10メートルの間隔でポールを1個づつ置いた.さらにその間の床面に2メートル間隔で計測のためのマーク(ビニールテープ貼付)をした.被検者にはスタートの合図とともに無理をしない程度でできるだけ速足で歩きながら,一方のポールからもう一方のポールを回って折り返すことを3分間継続させ,この間の歩行距離を計測した.なお測定においては2ないし3名同時にスタートさせ,検者が30秒毎に時間を読み上げ歩行中の被検者に時間経過を知らせた.
 先にも述べたように,今年度は呼気中亜酸化窒素濃度の測定は行わなかったが,あらたに握力とファンクショナルリーチの測定を追加した.すなわち,握力は握力計を用いて左右2回づつ測定し2回の平均値を求め,それぞれ左右の握力とした.またファンクショナルリーチの測定では,まず各被検者に対し体育館の壁の横に両足を揃えて立位姿勢で右手を床と水平に維持し,その位置からかがとを挙げることなくできるだけ右手を床に水平に延ばすよう指示した.そして最初の位置の指先から最大限に延ばしたときの指先の距離を物差しで測定した.次に左手のファンクショナルリーチは右手のそれと同様の方法で行った.
 得られた測定結果から各測定項目における男性および女性あるいは2年連続して測定に参加した者(46名)および全被検者(69名)の平均値と標準偏差を求めた.また2年連続して測定に参加した者(46名)の結果を比較するため対のあるt検定を用いた.

 3.アンケート調査
 体力測定に参加した被検者全員にアンケート調査を依頼した.すなわち,体力測定終了後にあらかじめ準備しておいたアンケート用紙(別紙)を配布し,現在の健康状態,食習慣,運動習慣ならびに健康維持の注意点などについて回答するよう依頼した.


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