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中高年女性の水泳運動中の酸素摂取量に関する事例研究

 考  察
 Dixonら3)は,年齢19歳の大学水泳選手では,ランニングで得られる最大酸素摂取量と水泳運動で観察される最大酸素摂取量とに有意な差はないが,平均年齢25歳のレクレーションナルなスイマーでは,ランニングで得られる最大酸素摂取量より,水泳で得られる最大酸素摂取量のほうが25%程度低いと報告している.この差は本研究で,水泳とランニングで得られた酸素摂取量の最大値の差(約15%)より大きい.これは,本研究で観察されたように換気交換比がトレッドミル運動と水泳運動で有意差がなかったことが示唆するように,本研究で用いたプロトコルは水泳運動中にも被検者に充分高い強度を課したことによると考えられる.
 酸素摂取量は運動を行うと増加するが運動を停止すると減少する.また,運動時間が長いほど酸素摂取量の増加の程度は高い.本研究では20秒の休息を挟んで,25mプールを往復する50m泳(40秒から60秒)のうちの最後の20秒〜30秒程度を採気し酸素摂取量を測定した.したがって,通常行われているような,2分から3分毎に連続して運動強度を漸増させる負荷法と異なり,酸素摂取量が幾分低い可能性もある.確かに,運動時間が長い被検者ほど,水泳運動中の酸素摂取量の最高値がトレッドミルで測定された値に近い.逆に被検者KSのように,泳げたのが最も低い速度で1セットだけの被検者では酸素摂取量はトレッドミルによる最高酸素摂取量の75%しか上昇していない.この点からも,今後,水泳運動中にはずれないマウスピース,シュノーケルあるいはその他の方法の開発が必要であると考えられる.
 また,水泳経験の長いコーチの水泳運動中の酸素摂取量の最高値は,トレッドミルによる走運動で観察された最高酸素摂取量よりも高かった.この結果は,これまで報告されている“エリート水泳選手の水泳運動中の最大酸素摂取量は,走運動中の最大酸素摂取量に限りなく近い”という先行研究7,8)の結果と同じような結果となった.また,さらにこの結果は,水泳をかなり行っているマスタースイマーでは,やはり水泳運動中の最大酸素摂取量を測定しないとトレーニング効果等は明らかにできないということも示唆しているとも考えられる.この被検者については,走運動による最高酸素摂取量の測定の際,レベリングオフが観察されているのでこの値は大筋群を用いた心拍出量により規定される最大酸素摂取量と考えられる.水泳運動中にこの被検者において酸素摂取量がトレッドミルによる走運動中の最大酸素摂取量に近かったのは,水泳運動により使われる筋量と走運動により使われる筋量が同程度であった可能性がある.比較的速い速度まで泳ぎきった被検者(SW,TK)ではトレッドミル運動で観察された最高酸素摂取量と水泳運動中の酸素摂取量の最大値とがより近い値となった.一方,最も遅い速度でしか泳げなかった被検者KSはトレッドミル運動で観察された最高酸素摂取量に比べて水泳運動での酸素摂取量の最高値はかなり低い値であった.これまで水泳中の酸素摂取量測定の対象となっている若年男性と比べると,本研究の対象となった中高年女性は筋量が少なく,体脂肪率が高いので,トレッドミルによる最高酸素摂取量測定時には速い速度で歩くことが困難になり測定を中止する場合もある.したがって,トレッドミルにおける酸素摂取量の最高値が,必ずしも最大酸素摂取量に相当しない場合がある.今後,水泳運動中の酸素摂取量の測定が容易な器具の開発により,比較的水泳トレーニングをはじめて長くない被検者の有酸素性エネルギー供給能の測定が可能になると期待される.
 本研究では,70歳の女性に対しても水泳運動中の酸素摂取量を測定した.この被検者は水泳トレーニングをはじめて10年以上で,マスター水泳競技大会では常に上位に入る女性である.したがって,無理のない範囲で測定を行ったが,他の被検者と同様にほぼ同じような結果となった.今後,安全を確保しながらこのような高齢者の測定を行っていきたい.
 今回の測定は,被検者の住所と測定地が離れており,測定時間も限られていたので,被検者を,通常慣れ親しんでいないマウスピースをつけ,ペースメーカーで泳速度を制御された水泳に充分,慣れさせることができなかった.今後は,測定に充分時間をかけ,被検者に充分,測定法になれてもらう必要がある.


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