中・高年齢女性のライフスタイルと生き甲斐および体力
−独居者と家族同居者との比較−
研究方法
1.対象者
対象者は,都内に在住する51〜75歳の女性214名で,1人住まいのいわゆる独居者30名(I群),家族とともに生活している家族同居者184名(H群)であった.
対象者は予め測定および調査の主旨,内容等の説明を受け任意に参加した.
2.測定項目と方法
平衡機能7)の測定として,30秒間の直立姿勢維持時の重心動揺軌跡長(LNG,cm),重心動揺面積(Env.area,cm2 ),重心動揺の原点
(Mean x,MX;Mean y,MY;cm)を開眼と閉眼でそれぞれ1回づつ合計2回測定し(アニマ社製グラビコーダーGS-12)3,12,13) ,ロンベルグ比
(開眼時LNGに対する閉眼時LNGの比)を算出した.直立姿勢は,裸足で左右の踵と第1指内側をつけ,手掌内側を大腿側につけて垂らし,開眼時には目
の高さに目標を置きそれを凝視した状態で測定した3,5,13) .また,閉眼で両手を腰に当てて保持し,合図と同時に利き足でない足を静
かに床から離して片足で立つ閉眼片足立ち時間(sec)の測定を行った.片足立ち時間は,上げた足がバランスを崩して再び床に着いた時,または立っ
ている利き足が動いてずれた時までを計測した3,4,5,11) .また,握力(kg,竹井機器社製握力計T.K.K.5101),捧つかみ反応(cm,ヤガミ社
製MY-50)を測定した.さらに,中・高年齢者の精神面の状態を把握することを目的に,体育科学センター作成の質問紙8) を用いて同居者
の有無,習慣的に実施する運動の状況(実施時間,頻度,種目,継続年数),仕事の有無等ライフスタイル,生き甲斐の有無とその対象,精神的ストレス
感とその対象,生活の目標,社会への貢献度などの精神面の調査を同時に行った.そして得られた結果を,独居者(?群)と家族同居者(?群)で比較した.
3.統計処理
?群と?群の平均値の差の検定には,分散に差がみられなかった場合にStudentのunpaired t-testを,分散に差がみられた場合にWelchのt-testを
用いた.また,群別出現頻度の検定にはカイ2乗検定を,各項目の関連性の検定にはPearsonの単回帰分析法を用いた.いずれも確率水準5%を有意限界とした.
測定および調査結果
1.年齢,体格と重心動揺測定値,棒つかみ反応および閉眼片足立ち時間
?群64.6±4.9歳(±SD〕はn群(62.3±3.12)より年齢が有意に高かったが,身長(1群,/51.7±5.4cm;?群,151.0±4.4),体重(?群,52.7±6.3kg;?群,
53.1±6.3)には差はなかった.
?群と?群それぞれの重心動揺測定結果をFig.1に,BMI,比握力(握力/体重),棒つかみ反応,閉眼片足立ち時間の測定結果をFig.2に示した.重心動揺測
定値は,独居者(?群)と家族同居者(II群)の測定値に有意差はみられなかった.棒つかみ反応,閉眼片足立ち,握力の実測値(?群,18.1±2.9kg;II群,19.7
±3.9)および比握力にも1群とn群の間に有意差はみられなかった.
そこで,週1回以上,1回20分以上運動を実施する場合を「運動習慣あり(Ex)」,それ以下の場合を「運動習慣なし(Nex)」として,運動習慣の有無に着目
して?群とII群の重心動揺測定値および体カテストの結果の差違を調べた.運動習慣のある独居者(?-Ex)の開眼時・閉眼時の軌跡長,重心動揺面積は,運
動習慣のない独居者(?-Nex),運動習慣のある家族同居者(II-Ex)および運動習慣のない家族同居者(II-Nex)より有意に低値で重心動揺が少なかった.ま
た?-Ex群は,閉眼時の重心動揺原点が?-Nex群とn-Ex群より爪先方向に有意に偏移した.しかし,軌跡長のロンベルグ比(閉眼時の開眼時に対する比;?-Ex,
1.09±0.40;?-Nex,1.32±0.94;II-Ex,1.37±0.35;II-Nex,1.38±0.34)には有意差はみられなかった.また?-Exは,?-Nexより棒つかみ反応が有意に短く敏捷
であったが,比握力の平均値や閉眼片足立ち時間に差はなかった.
次に,定職に就いているか否かに着目して重心動揺,棒つかみ反応等を比較した.定職に就いている者の重心動揺面積は(開眼時1.72±0.97cm2;閉眼時
1.88±1.31),定職に就いていない者(開眼時2.44±1.81cm2;閉眼時3.15±2.31)よりも有意に小さかった.年齢,身長,体重,BMI,棒つかみ反応,閉眼片足立ち
時間等には有意差はみられなかった.さらに独居者(?群)と家族同居者(II群)に分けて調べたが,両群の間に有意な差はみられなかった.
生き甲斐感の有無および生活の目標などに関する調査の結果から,生き甲斐を感じるという回答を「生き甲斐あり」,「生き甲斐感なし,わからない」と
いう回答を「生き甲斐なし」として,生き甲斐感の有無別に?群とII群を比較したが,重心動揺,棒つかみ反応等どの測定項目にも有意差はみられなかった.
□ Total (Group I ; Person living alone, n=18)
(Group 11 ; Person who lives together with sorneone, n= I13)
□ Nex (Groupl , n=12; Groupll, n=60)
□ Ex (Group I , n=6; GroupH, n=53)
Fig. 2.
Comparisons in Body mass index (BMI) , relative grip strength, stick
catching reaction and one-leg balance time with the eyes closed
between Group I and Group II, and between a person wha has a
regular exercise habit (Ex) and one who does not have a regular
exercise habit (Nex) . Subjects are middle-aged and elderly females.
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