中・高年齢女性のライフスタイルと生き甲斐および体力
−独居者と家族同居者との比較−
わが国では,2年後の西暦2000年に寝たきり老人数は約100万人,2010年には約140万人になると試算されている13).65歳以上の高齢者人口は2000年に2134万人,総人口の16.3%と推定されているので,高齢者の約5%が寝たきりになると予測される13).高齢者が寝たきりになる原因の第1は脳血管障害で全体の約50%,転倒による骨折が約30%,痴呆と老衰がそれに続く6).
高齢者では,下肢とくに大腿頸部を骨折すると寝たきりになり,予後調査によれば対象750例中99例(13%)が1年以内に死亡したと報告されている2).転倒の直接的原因と考えられているのが平衡機能の低下である1,4,5,7)が,転倒による骨折は女性が男性の1.8倍と圧倒的に多く,しかも外出時の受傷が原因とは限らず在宅時の骨折も多い2).このことは閉経後の骨密度の低下も相乗し,一寸した原因で身体のバランスを崩し転倒,骨折することが容易に推測される.高齢者にとって,転倒しにくい体力か,またその維持に貢献するライフスタイルか否かは,重要な生活基盤である10)と考えられる.
さて,高齢者の多い時代においては,世話をしてくれる身内がいない等の理由で必ずしも家族と同居できるとは限らず,独居生活を余儀なくされることが予想される.独居生活をする者が転倒し,それによる骨折が原因で寝たきりになってしまうと,1年以内に死亡する率も高くなるので2)致命的になる.したがって独居生活をするには,そのための健康・体力基盤が最低限必要になる.さらに,高年齢者にとって,生活に目標や生き甲斐があるか否か等,精神的な満足度,および生活への動機付けも生活上重要な要因9)であると思われる.
これらのことを鑑み,現在,既に独居生活をしている中・高年齢者と家族と同居生活をしている中・高年齢者を比較することで,とくに独居生活をする者のライフスタイル,体力および精神面の特徴を把握できると考えた.これによって高齢者の「自立した生活」を実現するための生活指針の要点が明らかになると予想される.高齢者の「自立」のためのライフスタイルと精神面も含めた体力基盤の方向性が見い出せれば,今後の高齢者の福祉対策にとってその意義は大きいと考えられる.
本研究では,中・高年齢女性を対象に平衡機能,握力,棒つかみ反応等の体カテストを実施し,運動習慣や仕事の有無等ライフスタイルに関する調査,および生き甲斐の有無とその対象,精神的ストレス感とその対象,生活の目標,社会への貢献度等の精神面についても質問紙を用いて調査した.そして「自立」という観点から,現在,独居生活をしている者と家族と同居生活をしている者の体力,ライフスタイル,精神面等を比較し,それぞれの特徴を見い出そうと試みた.これらの試みによって,今後増加する中・高年齢者が,転倒,骨折による寝たきりにならず,元気に独居生活ができるため維持すべき平衡機能等の基礎的体力要素,心掛けるべきライフスタイルおよび生き甲斐等精神的要因を模索することを目的とした.
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